あと30日で、他人に戻るふたり

書きかけのメモに視線を落とす。

『リビングのものは共有』
『食べられたくないものには名前を書く』
『夜中の呼び出しや帰宅時は、必ず声をかける』

あんなに話し合ったのに、書いたのはこれだけ。

そこに、無言で書き足す。


『寝室は絶対に侵入禁止』


それを見た彼の視線が、メモと私を交互に見比べる。

「……緊急時はどうすんの」

「声かけてください」

「返事がなかったら?」

「大丈夫です。声かけてくれれば」

「ノックしたら入っていいの?」

「────えっ、不安になってきた!鍵つけていいですか!?」


“侵入禁止”の文字を、わざとボールペンで何度もなぞって太字にしていく。
私の不安が色濃く反映されているみたいだった。

慌てふためいている私を、また面白そうに笑って見ている。

「鍵なんて必要ない。入るわけない」

「今言ったじゃん!不吉なこと!」

「全財産賭けてもいいよ、絶対に入らない」

わけの分からない自信、どこから来るの。

「…いくら持ってます?」

「なんで」

「いいから、いくら?」

「……」

「いくら?」

「……裕福な暮らしはできるくらい」


それっていくらなんですか。
…とまでは聞けなかった。