あと30日で、他人に戻るふたり

「いや、あれ一個でどうやってここで暮らすつもりだったんですか?全部、都度買い?今までも?」

「俺、住む場所とか興味なくて」

スマホを眺めながら、彼はなんてことないように続ける。

「今までは会社で用意してくれた短期間だけの部屋とか、マンスリーマンションとか、転々としてたから。だから会社にもちょっとした荷物とかは置いてある」

「えっ…、そんなの現実にあるんですか?」

「……あるんだな」

「他人事みたいに話すから怖いです」

「忙しくて住むところにまで気が回らなかった」


この歳になるまで、ちゃんとした生活をしていないことに驚きを隠せない。
…というか、ブラック企業なのでは?とさえ思ってしまう。

それでも、あまり苦じゃなさそうなところがまた謎だ。

「どうして、今回はちゃんと部屋を借りたんですか?」


この話の流れだと深い理由があるのではないかと思って聞いたのに、彼はいつもの調子で淡々としていた。

「特に理由はない。いつも会社に見てもらってるし、今回は一ヶ月でわりと長めの案件抱えたから、近いとこ自分で探してみようかなっていう…。それだけ」


ああ、変わり者だ。この人、絶対に会社でも厄介だと思われてるはずだ。