あと30日で、他人に戻るふたり

「この部屋は専用で使えばいいよ。プライバシーも守れるし、ちょうどいい」

「でも、…藍沢さんは?」

「俺は、ほんとにお気遣いなく。気を遣われる方がかえって気を遣う」

変な人だな、とあらためて思う。
でも、言い方は私に気を遣わせないためのそれだということは分かる。

申し訳ない気持ちは当然あるけれど────


「じゃあ、すみませんが。ここは私が使います」

素直にお言葉に甘えるのが一番。それだけは分かったのでうなずいた。

「よし。じゃあ解決だな」

さっさと行こうとする彼を「待ってください」と呼び止める。

「なに?」

「ベッド、一緒に運んでくれません?」

「ああ、うん」


ああでもない、こうでもない、と位置を調整して、私のベッドは無事にリビングから寝室へ移動された。

ついでに衣類や小物が入ったダンボールもいくつか運び入れてもらった。

こんなことを言うのは不謹慎かもしれないけれど、こういう時に男の人がいると助かるな、と思ってしまう。
荷物を軽々と運んでくれるのはありがたい。



そうしてまたがらんとしたリビングのローテーブルにふたりで座った時には、次の疑問を投げかけていた。


「ソファ、大きさどのくらいですか?」

「寝るのにも使いたいから、大きめ。明日届くよ」

「今日はどうするんです?布団は?」

「ないよ。今日は床で寝る」


彼は来た時に持っていたボストンバッグを指して、「あれだけだもん」と言うのだった。

……ミニマリストにも程があるだろうが。