あと30日で、他人に戻るふたり

「……じゃあ、ご飯とかどうするんですか?」

「分からない」

彼が言い淀む姿を見たことがないかもしれない。今回も見事なまでな即答だった。

「食べるかもしれないし、食べないかもしれない」


それ、ルール決められなくない?
というか、人間の生活じゃなくない?


「それルール決められなくないですか!?」

思わずそのまま口に出てしまった。
この、私の手に持っている紙とペンの意味がどこにもない。

「だから、決めない方が合理的だと思うよ。時間の無駄」


……彼の中の最強ワード、きっと今の“合理的”なんだろうな。
全部それで片付ける気だ、この人。


私は一度、深く息を吐いた。


落ち着きなさい、私。
これは仕事。そう、仕事。

変な物件に住むことになった調査員としての仕事。
だったら、この人も“環境の一部”。

そう思えば、なんとかなる。


「……じゃあ最低限だけ決めます」

「なに?」

「夜中に出ていく時」

目の前にいた彼が少しだけ顔を上げる。私は構わず続けた。

「一言ください」

「なんで?」

「怖いからです!!!」

思わず声が大きくなる。

「急にいなくなられるの、普通に怖いですからね!?」


こんな静かな部屋で、気づいたら誰もいないとか、絶対嫌だ。
そもそも、まだこの状況に慣れてないのに。

彼は少しだけ考えて、

「……分かった」

と言った。