再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。

「そうだ。侍女をまだ紹介してなかったな」

「あ、はい」

「リゼ、入れ」

「はい」


 扉の向こうから現れたのは、初日から私の世話をずっとしてくれているあの侍女。髪の毛をきっちり束ねていて、丸い目が可愛らしい、私と同年代の女性だ。


「俺の乳母の孫娘のリゼだ。セーラの身の回りの世話をしてくれる。リゼ。セーラに挨拶を」

「はい。セーラ様。侍女のリゼ・ミルボンと申します。ミルボン子爵家の長女です。先日からセーラ様のお世話を仰せつかっております。よろしくお願いいたします」

「セラ・イガラシです。この世界ではセーラと呼ばれています。ちゃんとご挨拶するのは初めてですね。いつも助かってます。ありがとうございます」

「セーラ様。侍女に敬語は不要です。楽にお話しください」

「そうだぞセーラ。じゃないと周りに示しがつかない」


 そう言われても、身分社会や階級社会に慣れていないため躊躇してしまう。

 だけど、この国で私は元々王族と同等の存在だ。こんなにも甲斐甲斐しく私の世話をしてくれている彼女が悪く言われるのは困る。


「……わかったわ。リゼ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 リゼとの挨拶が終わると、ロード様は王様へ謁見してくると言って部屋を出ていった。

 それを見送り、そういえばと思い出してリゼを呼ぶ。


「セーラ様。お呼びでしょうか」

「私が向こうの世界から持ってきた鞄って、どこにあるの?」

「セーラ様のお召し物とお手荷物でしたら、あちらのクローゼットの中にまとめてあります」

「中身を確認したいの。鞄を持ってきてもらえるかな」

「かしこまりました」


 すぐに持ってきてもらった鞄。スマホと財布と読みかけの小説、それから新しい会社の資料が入ったファイルが入っている。スマホはまだ充電は満タンだけれど、もちろん圏外だし使えるわけもないから電源を落とした。いつか繋がるかもしれないという期待を持ちたくなかったからだ。

 だけど斜め後ろからリゼの驚いたような視線を感じ、そりゃこの世界にはスマホなんて存在しないよなあと思って笑ってしまう。


「これね、私の世界での必需品で、遠く離れた人とすぐに連絡ができる機械なの」

「それは、魔法とは違うものなのですか?」

「うん。うまく言えないけど、魔法とは全然違うものなの。特別な能力は必要なくて、お金さえ払えば誰でも使えるものですごく便利なの。これ一つでお買い物したり、誰かと話したり、遊んだり。なんでもできちゃうんだから」

「魔道具のようなものでしょうか。異世界のものは初めて見ました。すごいです」


 興味深そうに見つめてくるリゼに鞄の中のものや日本での便利なものや機械についての話をしているうちに、夕食の時間になる。


「すっかりお話に夢中になってしまいまして申し訳ございません。すぐに夕食の準備をいたします」

「いいの、私も楽しかったから。ゆっくりでいいから気にしないで。それに、夕食といってもほとんど食べれそうもないから少しだけでお願い」

「ですが……」

「お腹、あんまり空いてないの。だから、ね?」

「……かしこまりました」


 渋々、と言った感じではあったものの、リゼは了承してくれて準備に向かっていく。

 私は一つ息を吐いて、鞄を置いてベッドから出て立ち上がった。

 ずっとベッドの中だったから、さすがに身体が痛い。ググッと両手を上にあげて伸ばすと、頭がスッキリするような気がした。

 そのままベッドの横にあるテーブルに向かい、椅子に腰掛ける。

 すぐにリゼがやってきて、夕食のスープとフルーツを出してくれた。

 言葉がわかるようになったら、少しずつ食欲が戻ってきて食べられるようになってきた。

 まだたくさんは無理だけれど、リゼがホッとしたように私を見つめてくるから良かったと思う。

 そのままその日は眠ることにして、リゼに世話をやいてもらいながらまた布団に潜り込んだのだった。