男爵令嬢が辺境伯の女主人に!?

数日後――
ラズベリー男爵家の応接室。
ベアトリス「……来たのね」
扉の向こうから足音が近づく。
そして――
侍女「シュクラリー辺境伯様、ご到着です」
扉が開いた。
フラン「初めまして、ベアトリス嬢」
柔らかな笑みを浮かべた青年。
だがその奥には、確かな威厳と強さがある。
ベアトリス「……」
(こいつが……辺境伯……)
一瞬だけ見惚れそうになるが――
ベアトリス(ダメよ!ここで負けたら終わり!)
心の中で自分を叱咤する。
ベアトリス「……随分と軽率な方なのですね」
いきなりの一言。
場の空気がピリつく。
父「ベ、ベアトリス……!」
母「やめなさい……!」
しかしベアトリスは止まらない。
ベアトリス「顔を見ただけで求婚など」
ベアトリス「辺境伯様ともあろう方が、随分と浅はかですこと」
完全なる喧嘩売り。
普通なら即終了案件。
だが――
フラン「ははっ」
笑った。
ベアトリス「……は?」
予想外すぎて固まる。
フラン「その通りだね。自分でもそう思うよ」
あっさり認めた。
フラン「でも、一目惚れってそういうものだろう?」
まっすぐな視線。
逃げ場がない。
ベアトリス「……っ」
一瞬言葉に詰まるが、すぐに立て直す。
ベアトリス「軽薄ですわね」
ベアトリス「そんな感情で結婚を決めるなんて」
フランは一歩、距離を詰めた。
フラン「軽薄、か」
フラン「じゃあ――」
ふっと微笑む。
フラン「君は、俺と結婚したくない理由があるの?」
ド直球。
ベアトリス「ありますわよ」
即答。
ベアトリス「そもそも、私は結婚する気がありませんの」
はっきりと言い切る。
ベアトリス「誰かに縛られるなんて御免ですわ」
ベアトリス「それに、あなたのような方に興味もありません」
空気が凍る。
父(終わった……)
母(我が家が終わりました……)
しかし――
フラン「そっか」
またしても、あっさり。
ベアトリス「……」
逆に怖い。
フラン「じゃあ、これから興味を持ってもらえるように頑張るよ」
にこっ、と笑う。
ベアトリス「……は?」
会話が成立しない。
ベアトリス「断っているのが分かりませんの?」
さらに追撃。
ベアトリス「私はあなたが嫌いです」
完全にアウト発言。
父「ベアトリス!!!!」
だが――
フラン「うん、いいね」
ベアトリス「……は???」
思考が追いつかない。
フラン「正直で好きだよ」
さらっと爆弾投下。
ベアトリス「はあああ!?」
ついに声が裏返る。
フラン「無理に取り繕うより、ずっといい」
フラン「君らしい」
ベアトリス、完全にペースを崩される。
ベアトリス「な……なんなのよ、あなた……」
フランは少しだけ真面目な顔になる。
フラン「俺は本気だよ」
フラン「君を妻にしたい」
静かで、でも強い声。
フラン「だから――」
もう一歩近づく。
フラン「逃がすつもりはない」
ベアトリス「……っ」
心臓が跳ねる。
悔しいほどに。
ベアトリス(絶対に……)
ぎゅっと拳を握る。
ベアトリス(絶対に嫌われてやるんだから……!)
だがその決意は――
完全に的外れであることを、まだ知らない。