男爵令嬢が辺境伯の女主人に!?

王都の城下町は、今日も賑やかだった。
行き交う人々、香ばしいパンの匂い、商人たちの呼び声――
その中を、ひときわ目を引く少女が歩いていた。
ベアトリス「もう、どうしてこんなに人が多いのよ……」
侍女「お嬢様、今日は市が立つ日ですから」
ベアトリス「はぁ……面倒ね。でも、新しい剣の手入れ道具は必要だし……」
侍女「本当に剣がお好きですね」
ベアトリス「好きというより、必要だからよ。自分の身くらい自分で守れないと」
侍女「さすがでございます」
ベアトリスは、男爵家の令嬢とは思えないほど凛とした雰囲気をまとっていた。
華奢な見た目とは裏腹に、その瞳には強い意志が宿っている。
その時――
石畳の道を、一台の豪奢な馬車が走っていた。
王城へと向かう、貴族専用の馬車。
その中に乗っていたのは――
フラン「……王都は相変わらず賑やかだな」
側近「陛下への報告が済めば、すぐに戻るご予定ですか?」
フラン「ああ、辺境は放っておけないからね――」
何気なく窓の外へ視線を向けた、その瞬間だった。
フラン「……っ」
視界に入ったのは、一人の少女。
人混みの中でも、なぜか彼女だけがはっきりと見えた。
ベアトリス「ねえ、次はあっちの店を見ましょう」
侍女「かしこまりました」
風に揺れる髪。
真っ直ぐな背筋。
そして、どこか近寄りがたいほどの気高さ。
フラン「……なんだ、あの子は」
側近「え?」
フラン「今の……見たか?」
側近「いえ、何を……」
フランは無意識に立ち上がり、窓に手をついた。
だが、馬車はそのまま進んでいく。
少女の姿は、人混みに紛れて見えなくなった。
フラン「……」
数秒の沈黙。
そして――
フラン「……決めた」
側近「はい?」
フラン「あの子、俺の妻にする」
側近「……は?」
あまりにも突然の宣言。
側近「フラン様、今なんと……」
フラン「一目惚れだ」
側近「……」
フラン「名前も知らないけど」
側近「当然です」
フラン「でも、絶対に見つける」
その瞳には、戦場で敵を見据える時と同じ、強い光が宿っていた。
フラン「――あの子は、俺のものだ」
側近「いや怖いですって」
こうして――
男爵令嬢ベアトリス・ラズベリーの平穏な日常は、
知らぬ間に終わりを迎えようとしていた。