追われる能天気姫と不愛想な騎士の巻き込まれ逃避行 〜偽りの王女は、初恋の騎士も王位も捨てて自由になりたい〜

 キースは私を担ぎ上げると
無慈悲にスタスタ歩き出す。

「ちょっと! 降ろしなさいってば!!」

ジタバタと暴れる私の顔のすぐ横には、
彼の鈍く光る銀色の甲冑があった。
その時、私は見てしまった。
彼の胸元、ちょうど心臓に近い位置に留められた
小さな銀色のバッチを。

大輪の百合の花の中央に
お姉さまの名前が刻まれた精巧な彫金細工。

間違いない。
このバッジは一部の熱狂的な騎士や貴族が
結成している『ララ様親衛隊』の団員の証だ!

「あ!  キース!  あなたは
ララお姉様の親衛隊の一人だったのね!?」

担がれた姿勢のまま、バッジを指差して叫んだ。

「ええ、そうですよ。それが何か?」

キースは歩調を緩めることもなく
面倒くさそうに即答した。

「何かじゃないわよ!
お姉様の親衛隊なら、妹である私にも
三歩下がって歩くくらいの
敬意を払うべきでしょう!?」

「は?  敬意?  冗談は寝て言ってください。
ララ様ほど慈愛に満ち、次期女王に
ふさわしい方はいないというのに、
あの方はなぜか陛下から冷遇されている。
それもこれも……」

ただでさえ、目つきの悪いキースが
ジロリと私を見あげた。

「陛下が、目の前でジタバタと暴れる
『だれかさん』ばかりを猫かわいがりして、
甘やかし放題にしているせいじゃありませんか?」

「誰かってもしかして私のこと?」

「おやぁ、意外と自覚はおありで。
……あ、失礼。『穀物袋様』でしたっけ?」

「誰が穀物袋よ!  この失礼千万な騎士!」

しかしキースは私の話に耳を貸さない。

「あ~あ……。全く、陛下はどうして
こんな『じゃじゃ馬』を溺愛するのか。
俺には一生かかっても理解できませんね」

は? じゃじゃ馬? 
仮にも姫であるこの私に向かって?

「だ、誰がじゃじゃ馬よ!
降ろしなさいってば!」

「嫌ですよ。降ろしたら秒速で
逃げ出すでしょう?
俺はこれ以上、無駄な残業を
増やす気はないんですよ。まったく」

露骨にため息をつくキース。

このままでは埒が明かない。
何としてもキースの間の手から逃れなければ。

「降ろしなさいって言ってるでしょう!」

キースの茶髪に手を伸ばして
全力でグイッと引っ張った。

すると……。

「いってー!!  何するんだよ!  
だからじゃじゃ馬なんだよ!
禿げたらどうしてくれるんだ!?」

キースがマジでブチ切れる。
けれど私だって負けていられない。

「また言ったわね!?  えい!  
こうしてやる!  
騎士の誇りも毛根も全滅よ!」

再び恨みを込めてキースの髪を勢いよく引っ張る。
それこそ毛根から引き抜くほどに。

「おい!  やめろって……!  いってー!! 
引っ張るなって言ってるだろう!」

「だったら離しなさいよ!!
えい! これでもか!」

「ば、馬鹿! 今ブチブチッって抜けたぞ!?
やめろーっ!」

こうして私の部屋に到着するまでの間。

廊下に悲鳴と罵声が響き渡った――