追われる能天気姫と不愛想な騎士の巻き込まれ逃避行 〜偽りの王女は、初恋の騎士も王位も捨てて自由になりたい〜

 午前7時――

「朝になってしまったわ……」

私はベッドの上で
ギンギンに目を見開いていた。

昨夜、どうやってアレス様との
婚約破棄をお父様に訴えるか
考え続けていたので、
今朝は6時間しか眠れなかった。
いつもなら9時間は眠るこの私が!

朝食の鐘が鳴るまで、まだ一時間はある。

「そろそろ、お父様の目が覚めている頃よね……
よし、今から直談判よ!」

本来なら侍女に髪を整えさせている時間だが、
今の私にそんな余裕はない。
急いで自分だけでも着替えられる
簡単なドレスに着替え、
部屋の扉を開け放つと
大股でお父様の部屋を目指した――


****

「え……?  なぜ、あなたがここにいるのよ?」

お父様の部屋の前には、
あの態度の悪い騎士が扉の前で
あぐらをかいて座っていた。

確か、名前はキース……?

彼は私を見上げると、隠そうともしない
大きな欠伸をしてからブスッと言い放った。

「見ればわかるでしょう? 
見張りですよ、み・は・り。
俺は夜勤明けで、今、一睡もしてない
猛烈な不機嫌モードなんですから」

「あ、あのねぇ……! お勤めご苦労様。
なら、そこをどいて下さらない?
お父様に用があるの」

「……はいはい」

キースはめんどくそうに立ち上がると、
再びドカリとその場に座り込んだ。

「……開けてくれないのかしら?」

「は?  自分で開ければいいでしょう。
俺は今、指一本動かすのも億劫なんですよ」

「分かったわよ! 期待した私がバカだったわ!」

こんな生意気な騎士、相手にするだけ
時間の無駄だ。
ドレスの裾を翻すと、思い切り扉を押し開けた。

ガチャッ!

開いた先には、朝日を背に受けて
書類を眺めるお父様の姿。

「お父様! おはようございます。
そして、大事なお話があります!」

お父様は優雅に目覚めのハーブティーを
飲んでいた。

「これは驚いた。
いつも一番朝寝坊のサラが、
こんなに朝早くから私を訪ねてくるとは」

「ええ、たまにはこんな日もありますわ。
お父様、お願いがあって参りました」

ズカズカと部屋に入ると、
向かい側の席にドカッと座る。

「お願いか?  可愛いサラの願いなら
どんなことだって聞いてやろう。
もしかして新しいドレスでも欲しいのか?」

「いいえ、それはもう十分です。
3日前に20着作っていただいたばかりですから」

「なら一体何だね?」

「はい、アレス様との婚約を破棄してください。
そしてララお姉様を彼の婚約者にして
差し上げてください」

その瞬間、お父様の態度が氷のように冷たくなる。

「……何だと?
サラ、今……何と言った?」

「い、いえ。ですから私とアレス様は
不釣り合いですしお姉様なら……」

「ならぬ」

「……へ?」

予想もしていなかった返事に目が点になる。

「アレスとの婚約破棄は認めぬ。
ましてやララなど! 
あのような出来損ないを
アレスに宛がうなど、国家の損失だ」

そ、損失……? 
あんなに立派なお姉さまなのに?

初めて見るお父様の冷徹な瞳に、
嫌な汗が背中を伝う。

「で、ですが、愛のない結婚なんて……!」

「愛?  そんなものは後から湧く。
いや、別に湧かなくとも構わぬ。
良いか、サラ。お前の役目はアレスと結婚し、
子を成すことだ。
最低でも5人は産んでもらわねば困る。
既にアレスには、お前との婚約を命じた際、
秘蔵の『魔導精力剤』も渡してある。
ついでに夜這いをけしかけといた」

「ええええええ!?  お父様、正気ですか!?
精力剤に、夜這いなんて……
それでも父親ですか!?」

一瞬、アレス様の逞しい身体が脳内に再生され
驚きと恥ずかしさが一周回ってしまった。

「衛兵よ! 入ってこい!」

お父様が吠えると、あの目つきの悪い騎士
――キースがスッと現れ、膝をつく。

「はい、陛下。お呼びでしょうか?」

私への態度とは雲泥の差の、完璧な礼。

「サラを部屋に連れていけ!
扉の外に魔法封印を施し、
一歩も出すな!
反省するまで一週間、外出を禁ずる!」

「はっ!  御意!」

返事をするキースの声がどこか嬉しそうに
感じるのは気のせいだろうか?

キースは不敵な笑みを浮かべて
私ににじり寄って来ると、
いきなり右腕を掴んできた。

「ちょっと! キース、離してよ!」

「仕事ですから。……よっと」

「キャアッ!」

視界がグルンと回転する。

キースは私を、まるで荷物のように
ヒョイと肩の上に担ぎ上げた。

「え!?  ちょ、ちょっと! 
淑女を穀物袋みたいに扱わないで!
おろしてキース!
お父様!!」

お父様は一度も振り返ることなく、そっぽを向いた。

「連れていけ!」

「はっ!」

キースは私を抱え上げたまま
クルリと方向を変え、扉へ向かう。

「ちょ、お父様!  食事は? 
私の朝食はどうなるんですのー!?」

こうして、目つき悪いキースの肩に乗せられた私は
成す術もなく強制連行されてしまった――