――カランカラン
ドアベルを響かせて、
私とキースは定食屋を後にした。
朝日を浴びた石畳が明るく輝く街路で、
私は大きく伸びをする。
「あ~美味しかった。
これでようやく力が出てきたわ」
お腹も満たされたことだし、
そろそろ本格的な家出に移ろう。
まずはこの街を出るための移動手段。
商人の荷馬車に紛れ込めば
足取りを掴ませずに国境まで行けるはず。
「フフフ……我ながら天才かも」
意気揚々と歩き出したその瞬間――
「姫! どこへ行くつもりなんですか!」
背後からマントをグイッと強く引っ張られ、
首がキュッと締まった。
「ウッ! ゴホッ! ゴホッ!
ちょっと、何するのよ! 苦しいじゃない!」
涙目で振り返ると、
キースが大げさに肩をすくめていた。
口元には、うっすらと意地の悪い笑みが
浮かんでいる。
こいつ、絶対わざとだ。
マントの破れ目が風にフワリと揺れる姿が、
余計に腹立たしい。
「あぁ、これはすみません。
悪気はなかったのですが……」
「悪気はないって……」
私は自分の首元を指でちょんちょんと突き、
シュッと右から左へ滑らせて見せた。
「いいのかしら、キース?
家出から帰った後、お父様に
『護衛騎士に首を絞められました~』
って泣きながら報告したら……?」
「ヒッ!」
キースの顔が一瞬で青ざめ、
慌てて自分の首を両手で押さえた。
下唇を噛み、肩をプルプル震わせている。
「自分の首が大事なら、
妙な真似は控えなさいよね」
「グッ……は、はい……」
ふふん。
からかうのはこれくらいにしてあげよう。
満足げに頷くと、
キースがイヤに丁寧な口調で聞いてきた。
「ところで、姫。
今からどちらへ向かわれるのでしょうか?
どうか、不肖の私めにお教えください」
慇懃無礼な態度に鳥肌が立つ。
「決まってるじゃない。
この国を離れるの。馬車を探しに行くのよ」
「はぁ!? 馬車ですって!?」
往来にキースの大きな声が響き渡り、
通行人の何人かがチラリと振り返った。
「馬鹿なんですか!?
俺は着の身着のままなんですよ?
金もなければ荷物もない!
どうやって旅に出るんですか!?」
キースのボロボロのマントが風に舞い、
くたびれた鎧が朝陽に鈍く光る。
「あるわよ……多少は」
ほんとは無一文だけどね。
「多少!? そんなんで二年も
家出するつもりだったんですか!?」
キースの顔に本気の絶望が浮かぶ。
だけど私だって考えなしに家出してきた
わけではない。
「お待ちなさい!
私には奥の手があるのよ!」
ビシッとキースを指さす。
「奥の手……まさか追い剥ぎですか!?」
キースが戦慄した顔で口を押さえる。
「追い剥ぎ……? そんなわけないでしょ!
見てなさい!」
周囲を見渡し、足元に転がっていた適当な
石ころを拾い上げた。
指先で軽く転がしながら、ニコリと笑う。
フフフ……これなんか
大きさも丁度いいし、純度も悪くなさそうね
キースの目が
明らかに警戒の色を強めた。
「何ですか……?
遂に頭がおかしくなってしまったんですか?」
「頭は正常よ。今からすごい物を見せてあげる」
「すごい物って……?
嫌な予感しかしないんですけど!?」
うるさいキースは、このさい無視。
石ころを握りしめると心の中で強く念じる。
石は淡く光り始め、
キースの顔は青ざめる。
「待て、姫。やめろ。
また何かおかしな真似する気か?
いいか、絶対にやめろよ……!
頼む、やめてくれ」
私は構わず、石を高く掲げた。
「馬鹿! よせー!!」
キースの絶叫が響き渡る中、
私は意気揚々と石に魔力を注ぎ込んだ――
ドアベルを響かせて、
私とキースは定食屋を後にした。
朝日を浴びた石畳が明るく輝く街路で、
私は大きく伸びをする。
「あ~美味しかった。
これでようやく力が出てきたわ」
お腹も満たされたことだし、
そろそろ本格的な家出に移ろう。
まずはこの街を出るための移動手段。
商人の荷馬車に紛れ込めば
足取りを掴ませずに国境まで行けるはず。
「フフフ……我ながら天才かも」
意気揚々と歩き出したその瞬間――
「姫! どこへ行くつもりなんですか!」
背後からマントをグイッと強く引っ張られ、
首がキュッと締まった。
「ウッ! ゴホッ! ゴホッ!
ちょっと、何するのよ! 苦しいじゃない!」
涙目で振り返ると、
キースが大げさに肩をすくめていた。
口元には、うっすらと意地の悪い笑みが
浮かんでいる。
こいつ、絶対わざとだ。
マントの破れ目が風にフワリと揺れる姿が、
余計に腹立たしい。
「あぁ、これはすみません。
悪気はなかったのですが……」
「悪気はないって……」
私は自分の首元を指でちょんちょんと突き、
シュッと右から左へ滑らせて見せた。
「いいのかしら、キース?
家出から帰った後、お父様に
『護衛騎士に首を絞められました~』
って泣きながら報告したら……?」
「ヒッ!」
キースの顔が一瞬で青ざめ、
慌てて自分の首を両手で押さえた。
下唇を噛み、肩をプルプル震わせている。
「自分の首が大事なら、
妙な真似は控えなさいよね」
「グッ……は、はい……」
ふふん。
からかうのはこれくらいにしてあげよう。
満足げに頷くと、
キースがイヤに丁寧な口調で聞いてきた。
「ところで、姫。
今からどちらへ向かわれるのでしょうか?
どうか、不肖の私めにお教えください」
慇懃無礼な態度に鳥肌が立つ。
「決まってるじゃない。
この国を離れるの。馬車を探しに行くのよ」
「はぁ!? 馬車ですって!?」
往来にキースの大きな声が響き渡り、
通行人の何人かがチラリと振り返った。
「馬鹿なんですか!?
俺は着の身着のままなんですよ?
金もなければ荷物もない!
どうやって旅に出るんですか!?」
キースのボロボロのマントが風に舞い、
くたびれた鎧が朝陽に鈍く光る。
「あるわよ……多少は」
ほんとは無一文だけどね。
「多少!? そんなんで二年も
家出するつもりだったんですか!?」
キースの顔に本気の絶望が浮かぶ。
だけど私だって考えなしに家出してきた
わけではない。
「お待ちなさい!
私には奥の手があるのよ!」
ビシッとキースを指さす。
「奥の手……まさか追い剥ぎですか!?」
キースが戦慄した顔で口を押さえる。
「追い剥ぎ……? そんなわけないでしょ!
見てなさい!」
周囲を見渡し、足元に転がっていた適当な
石ころを拾い上げた。
指先で軽く転がしながら、ニコリと笑う。
フフフ……これなんか
大きさも丁度いいし、純度も悪くなさそうね
キースの目が
明らかに警戒の色を強めた。
「何ですか……?
遂に頭がおかしくなってしまったんですか?」
「頭は正常よ。今からすごい物を見せてあげる」
「すごい物って……?
嫌な予感しかしないんですけど!?」
うるさいキースは、このさい無視。
石ころを握りしめると心の中で強く念じる。
石は淡く光り始め、
キースの顔は青ざめる。
「待て、姫。やめろ。
また何かおかしな真似する気か?
いいか、絶対にやめろよ……!
頼む、やめてくれ」
私は構わず、石を高く掲げた。
「馬鹿! よせー!!」
キースの絶叫が響き渡る中、
私は意気揚々と石に魔力を注ぎ込んだ――



