「ねぇ、キース。
そのおでこ……まだ赤いわね。痛い?」
私がとびきりの笑顔で尋ねると、
キースは不審げに眉をひそめた。
「それは痛いに決まってるでしょう。
何も見えていない状態で踏み込んで、
いきなりガツンですよ。
一体誰のせいだと思ってるんですか」
「確かにそうよね。
そのことについては、悪かったと思ってるわ。
……ごめんなさい、謝るわ」
素直に、しおらしく頭を下げると、
キースは毒気を抜かれたように目を丸くした。
「……へ? ま、まぁ、反省しているなら
別にいいですけどね。
……急に殊勝な態度を見せられると、
逆に気味が悪い」
もう一押しね。
私は身を乗り出し、
キースの目をじっと見つめて声を潜めた。
「でも、何故このような事態になったかは
分かる?」
「え? そんなの決まってるでしょう。
姫の変な魔術で目をくらまされて……」
「違うわよ、キース。それはただの結果論」
「結果論て……」
何か反論したそうなキースを無視して続けた。
「いい? もともとは、私が悪党たちに
命を狙われた。
そこをあなたが助けに現れ、私が加勢した。
……そうでしょ?」
自分が閃いた「とっておきの家出の口実」を
補強するように、言葉を紡いでいく。
「あの悪党たちは、『あるお方』の命令で
私の命を狙っていると言ったわ。
黒幕は身近にいる。城はとても危険なのよ」
「確かに、一理あるかもしれませんが……」
「だから! 私はもうこの国には居られないの。
いつどこで毒を盛られるか、
寝首をかかれるか分かったものじゃないわ。
常に暗殺の危機に怯えながら城で生きていくなんて、
まっぴらよ!」
私は女優顔負けの迫真の演技を続けた。
瞳を潤ませ、いかに自分が
追い詰められているかを必死に訴える。
「だから私はここを出て行くのよ。
連中が何故私の命を狙っているのかは
分からないけれど……五年……
そうね、二年も経てば暗殺者だって
諦めるはずだわ」
「話が飛躍し過ぎですよ!
だったら城に引きこもって警備を
固めればいいじゃないですか!」
「いやに決まってるでしょ! 常に暗殺の危機に怯えて
生活なんて出来るはずないでしょ!?」
「それほどデリケートな人じゃありませんよね?
姫は!」
骨付き肉にかぶりつきながら
なおも反論するキースに、
私は最後の一撃を放った。
「大丈夫、あなたに迷惑はかけないわ。
キースは食事が終わった後は、
このまま一人で城に帰りなさい。そして
『サラ姫は目の前で誘拐されてしまいました
申し訳ありません』と言えばいいだけよ」
するとキースが目を見開く。
「冗談じゃない!
そんなこと報告すれば俺の首が
物理的に飛ぶに決まってるでしょうが!
こうなったら意地でも連れて……」
「あら? いいの? だったらここで叫ぶわよ?
この人は誘拐犯です! って。
きっと店中の客が集まってくるわね」
「っ!! くっ……ひ、卑怯な……」
怒りと屈辱で身体を震わせるキース。
絶体絶命の沈黙。
店内の喧騒が遠くに感じるほど、
私たちのテーブルには張り詰めた空気が漂う。
やがて……キースは観念したかのように深く、
重い溜息を吐き出した。
「………行きます」
「は?」
「だから、俺もついて行きますって言ってるんですよ!
このまま一人で帰れば、俺はただでは済みません。
かといってここで叫ばれたって俺の騎士人生は詰む。
……だったら、姫の家出に付き合います!」
「なっ……!」
まさかの返答に、
今度は私が絶句する番だった。
「ただし!! 絶対に、二年経ったら
戻っていただきますからね!
それ以上は一分一秒たりとも付き合いませんから!」
キースはとんでもないことを口走った。
私の「自由な一人旅」という計画が、
ガラガラと音を立てて崩れていく。
どうやら私は、最高に「口うるさいお目付け役」を
道連れにしてしまったらしい――
そのおでこ……まだ赤いわね。痛い?」
私がとびきりの笑顔で尋ねると、
キースは不審げに眉をひそめた。
「それは痛いに決まってるでしょう。
何も見えていない状態で踏み込んで、
いきなりガツンですよ。
一体誰のせいだと思ってるんですか」
「確かにそうよね。
そのことについては、悪かったと思ってるわ。
……ごめんなさい、謝るわ」
素直に、しおらしく頭を下げると、
キースは毒気を抜かれたように目を丸くした。
「……へ? ま、まぁ、反省しているなら
別にいいですけどね。
……急に殊勝な態度を見せられると、
逆に気味が悪い」
もう一押しね。
私は身を乗り出し、
キースの目をじっと見つめて声を潜めた。
「でも、何故このような事態になったかは
分かる?」
「え? そんなの決まってるでしょう。
姫の変な魔術で目をくらまされて……」
「違うわよ、キース。それはただの結果論」
「結果論て……」
何か反論したそうなキースを無視して続けた。
「いい? もともとは、私が悪党たちに
命を狙われた。
そこをあなたが助けに現れ、私が加勢した。
……そうでしょ?」
自分が閃いた「とっておきの家出の口実」を
補強するように、言葉を紡いでいく。
「あの悪党たちは、『あるお方』の命令で
私の命を狙っていると言ったわ。
黒幕は身近にいる。城はとても危険なのよ」
「確かに、一理あるかもしれませんが……」
「だから! 私はもうこの国には居られないの。
いつどこで毒を盛られるか、
寝首をかかれるか分かったものじゃないわ。
常に暗殺の危機に怯えながら城で生きていくなんて、
まっぴらよ!」
私は女優顔負けの迫真の演技を続けた。
瞳を潤ませ、いかに自分が
追い詰められているかを必死に訴える。
「だから私はここを出て行くのよ。
連中が何故私の命を狙っているのかは
分からないけれど……五年……
そうね、二年も経てば暗殺者だって
諦めるはずだわ」
「話が飛躍し過ぎですよ!
だったら城に引きこもって警備を
固めればいいじゃないですか!」
「いやに決まってるでしょ! 常に暗殺の危機に怯えて
生活なんて出来るはずないでしょ!?」
「それほどデリケートな人じゃありませんよね?
姫は!」
骨付き肉にかぶりつきながら
なおも反論するキースに、
私は最後の一撃を放った。
「大丈夫、あなたに迷惑はかけないわ。
キースは食事が終わった後は、
このまま一人で城に帰りなさい。そして
『サラ姫は目の前で誘拐されてしまいました
申し訳ありません』と言えばいいだけよ」
するとキースが目を見開く。
「冗談じゃない!
そんなこと報告すれば俺の首が
物理的に飛ぶに決まってるでしょうが!
こうなったら意地でも連れて……」
「あら? いいの? だったらここで叫ぶわよ?
この人は誘拐犯です! って。
きっと店中の客が集まってくるわね」
「っ!! くっ……ひ、卑怯な……」
怒りと屈辱で身体を震わせるキース。
絶体絶命の沈黙。
店内の喧騒が遠くに感じるほど、
私たちのテーブルには張り詰めた空気が漂う。
やがて……キースは観念したかのように深く、
重い溜息を吐き出した。
「………行きます」
「は?」
「だから、俺もついて行きますって言ってるんですよ!
このまま一人で帰れば、俺はただでは済みません。
かといってここで叫ばれたって俺の騎士人生は詰む。
……だったら、姫の家出に付き合います!」
「なっ……!」
まさかの返答に、
今度は私が絶句する番だった。
「ただし!! 絶対に、二年経ったら
戻っていただきますからね!
それ以上は一分一秒たりとも付き合いませんから!」
キースはとんでもないことを口走った。
私の「自由な一人旅」という計画が、
ガラガラと音を立てて崩れていく。
どうやら私は、最高に「口うるさいお目付け役」を
道連れにしてしまったらしい――



