「ふぅ……ここまでくれば一安心よね」
人通りの激しい商店街まで逃げ込み、
ようやく足を止める。
そこで未だにキースと
手を繋いでいたことに気付き、
パッと離した。
「いつまで手を繋いでるのよ! 図々しいわね!」
「あのなぁ! 姫が勝手に……むごっ!」
反射的にキースの口を両手で塞ぐ。
「ちょっと!
こんな町中で『姫』なんて言わないでよ!
町の人たちにばれたらどうするのよ!」
キースが私の腕を掴んで振りほどいた。
「何すんですか!
大体、俺の手をずっと繋いでいたのは
そっちでしょう!?
こっちはまだ目がよく見えていないのに、
ここまで引きずり回されて!
その間、どれだけ酷い目に遭ったか知
らないとは言わせませんよ!?」
ようやく視界が戻ってきたのか、
キースはただでさえ悪い目つきを
さらに吊り上げた。
チラリと彼を見れば、おでこは真っ赤に腫れ、
マントは木の枝に引っかかって無残に破けている。
「仕方ないでしょ、急いでたんだから。
まぁ多少のトラブルはあったけど」
「見えてなかったんですよ!?
歩くのがどれだけ大変だったと
思ってるんです!?」
大げさな身振り手振りで訴えるキース。
「男のくせに器がちっさいわねぇ。
たかが6回転んだだけでしょ?」
「違う、8回です! ……いや、もういい。
こんな不毛な口論はどうでもいい。
さあ、大人しく城に帰りますよ。
こっちは徹夜明け、
おまけに食事だってまだなんですから」
「いやよ。私、帰らないから」
腕を組んでそっぽを向く。
冗談じゃない。
そもそも私は「家出」をしにきたのだから。
するとキースが呆れたような顔つきになる。
「……は? 冗談は顔だけにしてもらえませんか?
俺は一刻も早く城に戻って、
自分のベッドで泥のように眠りたいんですよ!
腹も減ってるんだ!」
「言うに事欠いて、冗談は顔だけにしろって
どういうことよ!
大体、なんであなたがここにいるのよ。
私を部屋に閉じ込めて、
さっさと帰ったんじゃなかったの!?」
ビシッと指をさすと、
キースは忌々しげに顔を歪めた。
「俺だって好きで来たわけじゃありません!
陛下に報告に行ったら
『サラに朝食を届けてやれ。
あれは食事が必要な体質だからな。
さもなくば減給だ』って言われたから、
厨房に寄ってたんですよ!
大体、俺でなければ扉の封印は解けませんからね」
「あ、なるほど」
私はポンと手を叩いた。
軍事国家である我が国では、
捕虜の拘束用に騎士が特殊な『封印具』を
常備しているのは常識だ。
そしてその封印は、術をかけた本人しか
解除できない仕様になっている。
「それじゃ、私の行方が分かったのも……」
「ええ、封印具の追跡機能ですよ。
まったく、貴重なアイテムをこんな
くだらないことに使わされるとは……」
ブチブチと文句を並べるキース。
封印具は貴重品だ。
キースのような平騎士なら年に
一個しか支給されない。
「さあ。説明は終わりです。
俺は今、猛烈に不機嫌なんですよ。
徹夜明けで戦う羽目になり、
目くらましまで食らって……」
何てねちっこい男なのだろう。
器が小さいにもほどがある。
「……ねえ、キース」
「何ですか」
「あなた……絶対モテないでしょ?」
「……はぁ!?
いきなり何言ってるんですか!」
やけにムキになる姿に、私は確信した。
「ハハぁん、さては図星ね?」
「っ! そんな話はもう結構!
ほら、帰りますよ!」
キースが強引に私の右腕を掴んだ。
……こうなったら、最終手段よ!
「き……」
「き?」
首を傾げるキースを無視して、
私は商店街のど真ん中で絶叫した。
「きゃあああああ!!
誰かー! 助けてー!
この人、痴漢でーす!!」
「はぁ!? ち、痴漢!?」
一瞬で町の人々が集まってくる。
「何だ? お嬢さんが叫んでるぞ」
「騎士の格好して最低な男ね!」
「おでこを真っ赤にして、
さては変質者か!?」
次々と浴びせられる罵声に、
キースの顔が怒りと羞恥で
茹でダコのようになった。
「ち、違う! 俺は……兄だ!
家出した妹を連れ戻しに来たんだ!
な? 兄ちゃんが悪かったから、
許してくれ! このとおりだ!」
まさかの兄設定!?
キースは必死の形相で私に目配せしてくる。
……まあ、いいわ。貸し一つね。
「……はい、実はそうなんです。
お騒がせして申し訳ありません」
私が頭を下げると、
町の人々は「なんだ、兄妹喧嘩か」と
口々に言いながら去っていった。
嵐が去った後――
キースはブルブルと震えながら私を睨んだ。
「……一体、どういうつもりですか。
俺に恨みでもあるんですか……?」
「あるに決まってるでしょ!
そのデカい態度。
横柄な口の利き方、そして空腹の私を
部屋に閉じ込めたでしょう!?」
再びビシッとキースを指さし、続けた。
「とにかく私は帰らない。
無理やり連れて帰ろうとするなら、
次は『誘拐犯』って叫ぶわよ?」
「ぐっ……卑怯な……」
キースの顔が悔しそうに歪む。
「分かったら、あなたは城に帰りなさいよ」
シッシッと手で追い払うが、
キースは動かない。
「帰れるはずないでしょう!
陛下には姫がいなくなったことは、
もう報告済みなんです!
手ぶらで帰ったら、
俺の首が物理的に飛びますよ!」
「バカね! なんで家出したことを
バラしちゃうのよ!」
「何ですって!? 『家出』!?
食い意地が張ってるから
町へ朝飯を食いに来ただけじゃなかったのか!?」
キースが絶望に目を見開く。
やばい、バレた。
でも、ここで逃げるわけにはいかない。
「えぇと、それは……」
う~ん……どうしよう。
何かとっておきの家出の口実は……。
何気なくキースの赤くなったおでこを
チラリと見た瞬間。
とっておきの家出の口実を思いついた――
人通りの激しい商店街まで逃げ込み、
ようやく足を止める。
そこで未だにキースと
手を繋いでいたことに気付き、
パッと離した。
「いつまで手を繋いでるのよ! 図々しいわね!」
「あのなぁ! 姫が勝手に……むごっ!」
反射的にキースの口を両手で塞ぐ。
「ちょっと!
こんな町中で『姫』なんて言わないでよ!
町の人たちにばれたらどうするのよ!」
キースが私の腕を掴んで振りほどいた。
「何すんですか!
大体、俺の手をずっと繋いでいたのは
そっちでしょう!?
こっちはまだ目がよく見えていないのに、
ここまで引きずり回されて!
その間、どれだけ酷い目に遭ったか知
らないとは言わせませんよ!?」
ようやく視界が戻ってきたのか、
キースはただでさえ悪い目つきを
さらに吊り上げた。
チラリと彼を見れば、おでこは真っ赤に腫れ、
マントは木の枝に引っかかって無残に破けている。
「仕方ないでしょ、急いでたんだから。
まぁ多少のトラブルはあったけど」
「見えてなかったんですよ!?
歩くのがどれだけ大変だったと
思ってるんです!?」
大げさな身振り手振りで訴えるキース。
「男のくせに器がちっさいわねぇ。
たかが6回転んだだけでしょ?」
「違う、8回です! ……いや、もういい。
こんな不毛な口論はどうでもいい。
さあ、大人しく城に帰りますよ。
こっちは徹夜明け、
おまけに食事だってまだなんですから」
「いやよ。私、帰らないから」
腕を組んでそっぽを向く。
冗談じゃない。
そもそも私は「家出」をしにきたのだから。
するとキースが呆れたような顔つきになる。
「……は? 冗談は顔だけにしてもらえませんか?
俺は一刻も早く城に戻って、
自分のベッドで泥のように眠りたいんですよ!
腹も減ってるんだ!」
「言うに事欠いて、冗談は顔だけにしろって
どういうことよ!
大体、なんであなたがここにいるのよ。
私を部屋に閉じ込めて、
さっさと帰ったんじゃなかったの!?」
ビシッと指をさすと、
キースは忌々しげに顔を歪めた。
「俺だって好きで来たわけじゃありません!
陛下に報告に行ったら
『サラに朝食を届けてやれ。
あれは食事が必要な体質だからな。
さもなくば減給だ』って言われたから、
厨房に寄ってたんですよ!
大体、俺でなければ扉の封印は解けませんからね」
「あ、なるほど」
私はポンと手を叩いた。
軍事国家である我が国では、
捕虜の拘束用に騎士が特殊な『封印具』を
常備しているのは常識だ。
そしてその封印は、術をかけた本人しか
解除できない仕様になっている。
「それじゃ、私の行方が分かったのも……」
「ええ、封印具の追跡機能ですよ。
まったく、貴重なアイテムをこんな
くだらないことに使わされるとは……」
ブチブチと文句を並べるキース。
封印具は貴重品だ。
キースのような平騎士なら年に
一個しか支給されない。
「さあ。説明は終わりです。
俺は今、猛烈に不機嫌なんですよ。
徹夜明けで戦う羽目になり、
目くらましまで食らって……」
何てねちっこい男なのだろう。
器が小さいにもほどがある。
「……ねえ、キース」
「何ですか」
「あなた……絶対モテないでしょ?」
「……はぁ!?
いきなり何言ってるんですか!」
やけにムキになる姿に、私は確信した。
「ハハぁん、さては図星ね?」
「っ! そんな話はもう結構!
ほら、帰りますよ!」
キースが強引に私の右腕を掴んだ。
……こうなったら、最終手段よ!
「き……」
「き?」
首を傾げるキースを無視して、
私は商店街のど真ん中で絶叫した。
「きゃあああああ!!
誰かー! 助けてー!
この人、痴漢でーす!!」
「はぁ!? ち、痴漢!?」
一瞬で町の人々が集まってくる。
「何だ? お嬢さんが叫んでるぞ」
「騎士の格好して最低な男ね!」
「おでこを真っ赤にして、
さては変質者か!?」
次々と浴びせられる罵声に、
キースの顔が怒りと羞恥で
茹でダコのようになった。
「ち、違う! 俺は……兄だ!
家出した妹を連れ戻しに来たんだ!
な? 兄ちゃんが悪かったから、
許してくれ! このとおりだ!」
まさかの兄設定!?
キースは必死の形相で私に目配せしてくる。
……まあ、いいわ。貸し一つね。
「……はい、実はそうなんです。
お騒がせして申し訳ありません」
私が頭を下げると、
町の人々は「なんだ、兄妹喧嘩か」と
口々に言いながら去っていった。
嵐が去った後――
キースはブルブルと震えながら私を睨んだ。
「……一体、どういうつもりですか。
俺に恨みでもあるんですか……?」
「あるに決まってるでしょ!
そのデカい態度。
横柄な口の利き方、そして空腹の私を
部屋に閉じ込めたでしょう!?」
再びビシッとキースを指さし、続けた。
「とにかく私は帰らない。
無理やり連れて帰ろうとするなら、
次は『誘拐犯』って叫ぶわよ?」
「ぐっ……卑怯な……」
キースの顔が悔しそうに歪む。
「分かったら、あなたは城に帰りなさいよ」
シッシッと手で追い払うが、
キースは動かない。
「帰れるはずないでしょう!
陛下には姫がいなくなったことは、
もう報告済みなんです!
手ぶらで帰ったら、
俺の首が物理的に飛びますよ!」
「バカね! なんで家出したことを
バラしちゃうのよ!」
「何ですって!? 『家出』!?
食い意地が張ってるから
町へ朝飯を食いに来ただけじゃなかったのか!?」
キースが絶望に目を見開く。
やばい、バレた。
でも、ここで逃げるわけにはいかない。
「えぇと、それは……」
う~ん……どうしよう。
何かとっておきの家出の口実は……。
何気なくキースの赤くなったおでこを
チラリと見た瞬間。
とっておきの家出の口実を思いついた――



