追われる能天気姫と不愛想な騎士の巻き込まれ逃避行 〜偽りの王女は、初恋の騎士も王位も捨てて自由になりたい〜

 鋭い声が周囲に響き渡り、
期待に胸を躍らせた。

まさかアレス様が私を助けに――!?

期待を胸に、声の聞こえてきた方角を
最高の笑顔で振り向き……
そして、盛大に落胆する。

何と現れたのは、
あの目つきも悪く、態度も悪いキースだったのだ。

嘘よね? 嘘だと言って!?
本来こういう場面で助けに来てくれるのは、
一応まだ婚約者のアレス様のはずなのに!

あまりのショックと納得のいかなさに、
ビシッとキースを指さした。

「ちょっと! 何であなたがここに……!」

しかし――

「てめぇ! 何しにここへ来やがった!?」

無情にも、私の台詞は悪党の1人に
横取りされてしまった。

「俺たちは、あるお方の命令で
このガキの始末をしなきゃならねぇんだよ!」

「そうだ! 邪魔をするなら
ガキの前にテメェから殺るぞ!?」

「ちょっと! 誰がガキよ!」

私をガキ呼ばわりする悪党たちに、
思わず全力で文句を言う。

するとキースの口元に不敵な笑みが浮かんだ。

「フン、悪いがなぁ……
そのガキを連れて帰らないと
俺の給料が減給されてしまうんでな!
おい! テメェら! 
命が惜しければそのガキを置いて
とっととどこかへ消えうせろ!」

キースはマントを払いのけると、
ロングソードをスラリと引き抜く。

「こらー! 誰がガキよ!!」

あろうことか、助けに来たはずのキースまでもが
私を2回もガキ呼ばわりする。
しかも追いかけてきた理由が
給料を減額されるから!?

王族への忠誠心も何もあったものではない。

私をのけ者に、4人の会話は続く。

「面白れぇ……俺たち3人を
お前が1人で相手にできるってのか?」

「随分と怖いもの知らずのようだなぁ……
この青二才野郎が!」

「でかい口叩きやがって!」

はっ! そうだ! 
相手は3人、しかも両手にダガーを持つ
悪党までいる。
合計4つの武器を相手にしなければならない。
対するキースはロングソード一本のみ。
これはあまりに分が悪い。

「野郎ども! かかれ!」

「「おう!!」」

1人が吠え、3人は地を蹴ると
一斉にキースめがけて突進していく。

ロングソードを持った男がキースに切りかかり、
ダガーを持った男がキースめがけて同時に投げる。

え!? 嘘! まさか投げるの!?

ヒュッ! 

空を切ったダガーはキースの顔めがけて飛んでいく。

サッと避けるキース。
そして目標物を失ったダガーは、
背後の木にカッ!カッ! 
と子気味良い音を立てて、ぶっささる。

「チッ! 避けられたか!」

その間にロングソードを振りかぶり、
別の男がバトルアクスで襲い掛かる。

キィンッ! 

金属音が激しくぶつかる音が周囲に響く。

キィン! ガキンッ! 

いつの間にか3人同時にキースへ攻撃を仕掛けていた。

へ~。
態度も目つきも悪いけど、腕は中々のようね。
でもアレス様に比べるとまだまだだけどね。

……たぶん、アレス様の方が強い。
……強い、はずよ。

けれど、いくらなんでも3対1は
さすがに卑怯だと思う。
かくなるうえは私が錬金術で加勢しなくては!

「え~と……何か使えるものはないかしら……」

咄嗟にポケットに手を入れると、
何故かサングラスが見つかった。

「サングラス……あ! そうだったわ!
海辺のリゾートに出掛けたときに
使ったのだっけ。あの旅行は楽しかったわ……」

キィン! 

鋭い金属音で現実に引き戻される。

そうだ、今はそんな場合では無かった。
ピンチのキースを助けてあげないと。

だけどサングラスを目にしたおかげで、
素晴らしいアイディアが浮かんだ。

早速サングラスを装着すると
足元に落ちていた石ころを拾い上げて握りしめ、
強く念じる。

そして……一瞬、石がピカッ!と光った。
見ると石はまばゆい光に包まれている。

「フフフ……待ってなさいよ、悪党ども。
ついでにキース。
私の力を見せてあげるから! えい!」

握りしめていた石を戦っている4人に向けて
勢いよく投げつける。
それと同時に、目を閉じた。

その途端……。

――カッ!

辺りはまばゆい閃光に包まれた。
男たちの悲鳴が路地裏に響き渡る。

「ぐあっ!」

「ま、眩しいッ!」

「目、目があっ!!」

「うわああっ!?」

そっと目を開けると、
地面に転がってのたうちまわる悪党たち……
そして、その横で武器を落とし、
顔を覆って蹲るキースの姿があった。

……どうやら、私の閃光弾は少しばかり
「加減」を間違えてしまったようだ。

だけど……。

「今ね!」

タタタタッとキースに駆け寄ると、
躊躇なく彼の腕をグイッと引っ張った。

「うわあっ!? な、何だ!」

目を閉じたままのキースが、
バランスを崩して倒れ込む。

「いいから! 逃げるのよ!
悪党たちの目がくらんでいる今のうちに!」

叫んでキースを引っ張った瞬間。

地面に転がっていたはずの男たちが
血相を変えて反応した。

「はぁ!? 逃げるだと!?」

「冗談じゃない! 逃がすかよ!」

「逃げられると思ってるのかよ!」

彼らはフラフラと足元をよろめかせながらも、
殺気をむき出しにして立ち上がろうとしている。

「冗談じゃないわ。
命を狙われてるのに逃げないわけないでしょ、
アッカンベーだ!」

目の見えていない悪党たちに
おもいきり舌を出してやると、
キースの腕を掴んで走り出した。

「お、おい! どこ行くんだよ! 
俺はまだ目が……! ぐはぁっ!」

バチンという音とともに
突然キースが叫んだ。

後ろを振り返ると、
どうやらおでこに木の枝が命中したらしい。

あ……そうか、私より背が高いからなぁ。

「て、てめぇ……」

おでこを真っ赤にさせながら、
薄目を開けたキースが涙目で睨みつけている。

「い、いいから! 
それより今は逃げるのよ!」

「……クッ! 後で覚えてろよ!」

こうして私はキースを連れて
悪党たちからの脱出に見事成功したのだった――