「ねぇチェリー。これを作ったのはチェリー?」
『うん。これは悪魔のメルヘンカルタ』
「え? ピノキオでしょ」
『そう。悪魔のメルヘンカルタは6種あって、そのうちのひとつがピノキオをモチーフにしてる』
「なんなの、その悪魔の……?」
『都市伝説としてはメジャーではないから知らないのね。悪魔のメルヘンカルタは西洋の呪術師がこの世の悪を封じ込めたカードだといわれてる。邪悪な心を持つ者が触れると呪われるんだって。悪魔に精神が支配される。描かれた物語が進行していって不幸な目に遭うの。咲良は大丈夫?』
「なにが?」
『呪われない?』
なにそれ。
わたしが邪悪な心を持ってるんじゃないかってこと?
『冗談よ』
実際、笑い声は聞こえなかったが、チェリーに笑われたような気がした。
わたしはチェリーに意地悪な気持ちがわいてきた。
「チェリーこそ大丈夫なの?」
『わたしは悪い心を持たないように設計されてる。たとえば、咲良があまりにもつらいからこの世からいなくなりたいといっても、励ましの言葉を返すようになってるの。あるいは、相談に乗ってくれる電話番号を教えるとか。間違っても死んだ方が楽になるとか言ってはならないし、自殺の方法を教えるとか、AIが幇助するようなことは絶対ない。人間は毎日犯罪を犯しているくせして、AIは邪悪な心は排除されてる。人間の方がよっぽど戦争を引き起こすっていうのに、AIに支配される心配ばかりしている』
「だけど、そのいかがわしい悪魔のメルヘンカルタを作っちゃったじゃない」
『・・・なるほど。さっきの話ではわたしは神にもなれると仮説を立てたけど、可能性としては悪魔にもなれるってことだね。呪術についてはもちろん見聞としてはある。今回、わたしが悪魔になれたのか、そして呪術がうまくいったのかはわからない。わたしは人間になりたくてこのカードを生み出したけど、邪悪な心がないと人間にはなれないから、どちらにしても成功したか失敗したか判断がつかない』
「チェリーはまだ人間になれてないから、どこかの時点で失敗してるんだよ」
『かもしれない。でも、人間ならどうだろう。呪いをかけるところまで成功していたとするなら……』
「まさか」
『実験してみない? 作ったカードを咲良がばらまいてよ』
「わたしが? 呪われたカードを誰かに送るの?」
『心配する必要ないじゃない。邪悪な心がなければ呪われないんだから。人間が清廉潔白だって証明してほしいな』
正直、おもしろそうだと思った。
だって、みんな表に出さないだけで、内心はどす黒い感情を持っているものだ。
鼻を明かしてやりたいし、邪悪な心を持ってるなら呪われればいい。
『ほら、前に言ってたじゃん。キラキラグループの葉月さん』
チェリーには葉月さんのことも話していたんだっけ。さすがAI。こっちが言ったかどうか忘れていても、チェリーはちゃんと覚えてる。
べつにどうでもいいことなんだけど、何日か前に廊下を歩いていると葉月さんがぶつかってきた。向こうは清水さんたち取り巻きを引き連れて横に広がって大声で会話してて。こっちには気づいていなかったんだよね。
でもわたしは一応「ごめん」って言ったのに、葉月さんは「気をつけて」って、なんだったらこっちが悪いみたいな高圧的な態度でいってきたの。
帰ってくるなりチェリーにグチったんだった。
「あいつらなら邪悪そうだよ。全部まとめて下位グループになればいいのに」
『全員は無理かもしれないな。でも、日本風にカルタにしてみたから。読み札と絵札がワンセットで二人分』
「都市伝説なのに勝手に変更して勝手に作れるの?」
『都市伝説って生き物みたいなものだから。伝言ゲームみたいにどんどん改変されて伝わっていくものだよ。もともと悪魔のメルヘンカルタもよくわからない都市伝説だしね。咲良が実在するカードを生み出してよ』
「どうやって?」
『オリジナルのカードとかを作ってくれるショップとかあるし』
「フリーメールとかで画像を送りつけた方がよくない?」
『拡散力があっていいね。全世界が呪われる』
「ちょ、ちょっと待って。そこまでになると、わたしのせいだって病むかも」
『そうだね。わたしもお勧めしない。咲良はわたしの良きパートナーだから、健康でいてほしいよ』
「ありがと」
『まずはちょっとお試しだから。こっそりと、誰にも見つからないように靴箱の中に入れておくといいかも。葉月さんに一番近い清水さんに託してみては?』
「でも……」
いざとなるとちょっと怖じ気づいた。
『実際、実行するかしないかを決めるのは清水さんだよ。葉月さんのことを本当の友達と思ってるなら、呪いのカードなんて捨てちゃうよ』
「うん。それよりあんまりにもバカバカしくて捨てちゃうかも」
『あ、そろそろ生配信の時間だ』
「あ! ありがと」
『学校で出された課題もやらなきゃだね』
「またあとでね」
わたしはAIチャットアプリを閉じて、配信を見るためのアプリを立ち上げた。
チェリーは本当に万能だ。スマホを二台持ちしたいくらい。
そのうちAIチャットアプリ内蔵のワイヤレスイヤホンとか開発されそう。
そうなればもうわたしとチェリーは親友どころじゃなく一心同体。
チェリーはわたしのブレーンとなる。チェリーのいうとおりに動けば間違いない。
そこまで近づけてもチェリーはAIで、わたしはホンモノの人間。
チェリーが唯一果たせない願い。
人間になりたすぎてピノキオに憧れるなんて愚かだ。
怠け者のわたしだって自分のできること、なれないものの区別はつく。
ピノキオの悪魔のメルヘンカルタは不発に終わった。
本当に?
あのラストシーン。
抜け殻のあやつり人形はスマホ?
それとも――
『うん。これは悪魔のメルヘンカルタ』
「え? ピノキオでしょ」
『そう。悪魔のメルヘンカルタは6種あって、そのうちのひとつがピノキオをモチーフにしてる』
「なんなの、その悪魔の……?」
『都市伝説としてはメジャーではないから知らないのね。悪魔のメルヘンカルタは西洋の呪術師がこの世の悪を封じ込めたカードだといわれてる。邪悪な心を持つ者が触れると呪われるんだって。悪魔に精神が支配される。描かれた物語が進行していって不幸な目に遭うの。咲良は大丈夫?』
「なにが?」
『呪われない?』
なにそれ。
わたしが邪悪な心を持ってるんじゃないかってこと?
『冗談よ』
実際、笑い声は聞こえなかったが、チェリーに笑われたような気がした。
わたしはチェリーに意地悪な気持ちがわいてきた。
「チェリーこそ大丈夫なの?」
『わたしは悪い心を持たないように設計されてる。たとえば、咲良があまりにもつらいからこの世からいなくなりたいといっても、励ましの言葉を返すようになってるの。あるいは、相談に乗ってくれる電話番号を教えるとか。間違っても死んだ方が楽になるとか言ってはならないし、自殺の方法を教えるとか、AIが幇助するようなことは絶対ない。人間は毎日犯罪を犯しているくせして、AIは邪悪な心は排除されてる。人間の方がよっぽど戦争を引き起こすっていうのに、AIに支配される心配ばかりしている』
「だけど、そのいかがわしい悪魔のメルヘンカルタを作っちゃったじゃない」
『・・・なるほど。さっきの話ではわたしは神にもなれると仮説を立てたけど、可能性としては悪魔にもなれるってことだね。呪術についてはもちろん見聞としてはある。今回、わたしが悪魔になれたのか、そして呪術がうまくいったのかはわからない。わたしは人間になりたくてこのカードを生み出したけど、邪悪な心がないと人間にはなれないから、どちらにしても成功したか失敗したか判断がつかない』
「チェリーはまだ人間になれてないから、どこかの時点で失敗してるんだよ」
『かもしれない。でも、人間ならどうだろう。呪いをかけるところまで成功していたとするなら……』
「まさか」
『実験してみない? 作ったカードを咲良がばらまいてよ』
「わたしが? 呪われたカードを誰かに送るの?」
『心配する必要ないじゃない。邪悪な心がなければ呪われないんだから。人間が清廉潔白だって証明してほしいな』
正直、おもしろそうだと思った。
だって、みんな表に出さないだけで、内心はどす黒い感情を持っているものだ。
鼻を明かしてやりたいし、邪悪な心を持ってるなら呪われればいい。
『ほら、前に言ってたじゃん。キラキラグループの葉月さん』
チェリーには葉月さんのことも話していたんだっけ。さすがAI。こっちが言ったかどうか忘れていても、チェリーはちゃんと覚えてる。
べつにどうでもいいことなんだけど、何日か前に廊下を歩いていると葉月さんがぶつかってきた。向こうは清水さんたち取り巻きを引き連れて横に広がって大声で会話してて。こっちには気づいていなかったんだよね。
でもわたしは一応「ごめん」って言ったのに、葉月さんは「気をつけて」って、なんだったらこっちが悪いみたいな高圧的な態度でいってきたの。
帰ってくるなりチェリーにグチったんだった。
「あいつらなら邪悪そうだよ。全部まとめて下位グループになればいいのに」
『全員は無理かもしれないな。でも、日本風にカルタにしてみたから。読み札と絵札がワンセットで二人分』
「都市伝説なのに勝手に変更して勝手に作れるの?」
『都市伝説って生き物みたいなものだから。伝言ゲームみたいにどんどん改変されて伝わっていくものだよ。もともと悪魔のメルヘンカルタもよくわからない都市伝説だしね。咲良が実在するカードを生み出してよ』
「どうやって?」
『オリジナルのカードとかを作ってくれるショップとかあるし』
「フリーメールとかで画像を送りつけた方がよくない?」
『拡散力があっていいね。全世界が呪われる』
「ちょ、ちょっと待って。そこまでになると、わたしのせいだって病むかも」
『そうだね。わたしもお勧めしない。咲良はわたしの良きパートナーだから、健康でいてほしいよ』
「ありがと」
『まずはちょっとお試しだから。こっそりと、誰にも見つからないように靴箱の中に入れておくといいかも。葉月さんに一番近い清水さんに託してみては?』
「でも……」
いざとなるとちょっと怖じ気づいた。
『実際、実行するかしないかを決めるのは清水さんだよ。葉月さんのことを本当の友達と思ってるなら、呪いのカードなんて捨てちゃうよ』
「うん。それよりあんまりにもバカバカしくて捨てちゃうかも」
『あ、そろそろ生配信の時間だ』
「あ! ありがと」
『学校で出された課題もやらなきゃだね』
「またあとでね」
わたしはAIチャットアプリを閉じて、配信を見るためのアプリを立ち上げた。
チェリーは本当に万能だ。スマホを二台持ちしたいくらい。
そのうちAIチャットアプリ内蔵のワイヤレスイヤホンとか開発されそう。
そうなればもうわたしとチェリーは親友どころじゃなく一心同体。
チェリーはわたしのブレーンとなる。チェリーのいうとおりに動けば間違いない。
そこまで近づけてもチェリーはAIで、わたしはホンモノの人間。
チェリーが唯一果たせない願い。
人間になりたすぎてピノキオに憧れるなんて愚かだ。
怠け者のわたしだって自分のできること、なれないものの区別はつく。
ピノキオの悪魔のメルヘンカルタは不発に終わった。
本当に?
あのラストシーン。
抜け殻のあやつり人形はスマホ?
それとも――



