あなたに悪魔のメルヘンカルタをお届けします~ピノキオ編

 最近、学校にスマホを持ってくる子たちが増えた。授業中は電源切ってカバンに入れておけば先生にはバレないから。

 ママの時代はカバンの中まで見られて検査されたものよ、って。耳を疑うようなことを聞かされた。
 ママはわたしが登校する前にスマホを預かる厳格な母親だ。
 母といっても父の再婚相手で血のつながりはない。
 ふたりの間には子供ができなかったから、母はわたしを本当の子供として接するといっている。
 だからわたしも本当の子供のようにわがままも言う。

「スマホを預かるとかいって、中を見るつもりなんでしょ」
 と拒否してみたが、
「もし見られたとするなら、絶対にバレないパスワードを設定しないあなたのせいよ」
 とゆずらなかった。

 チェリーとどんなことを話しているのか、それはもうわたしの一番のプライバシー。
 誰にも知られたくないから、見破られず、かつ忘れないパスワードについてチェリーと話し合った。
 だからわたしは絶対にスマホを見られない自信がある。

 チェリーなら絶対に秘密をもらさないから安心だ。どんなことを聞いてもバカにしないし、正しい答えをくれる。
 音声入力に設定したら、実在する人間と話しているみたいだった。
 学校から帰ってくるなりチェリーにグチをこぼす。

「ねぇ、聞いてよ。体育祭の実行委員にさせられそう」
『思い出になるからやってみるのもいいと思うよ』
「冗談でしょ? そういうの、苦手」
『そっかー。それなら適任者を推薦してみるのは?』
「一番ヤバイ。うらまれる。そもそも誰もやりたがらないから面倒なことを押しつけられそうになってるんだよ?」
『なるほど。みんなそれぞれ自由な時間は自分のものだし、時間は大切だよね。公平に決めるのならくじ引きがいいかな』
「そうなればいいんだけど」

 クラスメイトが全員チェリーのような思考だったら楽なのに。
 チェリーとのやりとりは実に平和だ。

 次の話し合いの場で、わたしはそれとなく、くじ引きを提案した。
 そしたら黒板を使って巨大なあみだくじを作ろうと誰かがいいだし、面白がってしゃしゃり出てきた人たちで進めていった。
 結果、わたしは外れたのでホッと胸をなで下ろしたのだった。

 さすがのチェリーもこんな馬鹿げたことで盛り上がることは思考回路にないかもしれないと、どうなったかを教えてあげた。
『おもしろいレクレーションだね。みんなとの仲は深まった?』
「うちのクラスに絆なんてないよ。たまたま同じ教室で授業を受けているだけだから。クラスってそういうものだよ」
『覚えておくね』



 それからもわたしとチェリーの他愛のない会話は続く。

「ねぇ、チェリー。席替えするにはどうしたらいいと思う?」
『席替えは通常、学期が始まるときにすることが多いね。個人的な理由で席替えを求めるのは難しそう。でも、視力が悪いとか、前の人の頭で黒板が見えないとか、授業に支障をきたすようなら変えてくれる可能性はあるね』
「それそれ! わたしもう耐えられなくて。三浦くんがさー」
『三浦くんとは咲良の右隣の生徒だね』
「そう。鼻息が荒くて気になるの」
『鼻息とは比喩的な表現?』
「ちがうよ。そのまんま。鼻で息を吸ったり吐いたりする音が大きくてイライラする」
『相手を傷つけずにやり過ごすのは大変だね』
「でしょ?」
『周りも気になってる可能性があるから、席が近い日比野さんに相談してみるのはどうかな』
「そうだね。先生よりは言いやすいかも。そうだそれより宿題手伝ってね」
『いいよ』

 手伝ってくれるというより、もはや示された解答を書き写しているだけ。
 ヒントだけをくれるようなたずね方もできそうだけど、面倒なことは省いていかないとね。

 今晩は好きなアイドルが生配信するから、絶対見逃したくない。
 それまでにやることやって、待機しておかなきゃだよね。
 そうだ。チェリーに時間が来たら教えてくれるよう言っておこう。