「ふーん、そうなんだぁ。あなたって物知りなのね」
「へへっ、そうだろ?それじゃあもっと教えてやるよ。実は研究結果は俺が持ってんだ。鍵も全部俺が管理してんだぜ!」
「そうなの……⁉︎すごい、とっても信頼されてる証じゃない!」
両手を男の手に乗せて、頬を染めて見上げる。
そうやって男を褒めれば、その男はたちまちいい気分になって胸を張った。
「ここだけの話、俺の家の金庫に全部眠ってんだけどよ。実はアメリカンマフィアのエルツァーノ家に売る予定なんだ」
「えっ、売っちゃっていいの?」
「いいんだよ。エルツァーノの奴らは、俺の見立てでは次にこの街を支配する奴らだ。今恩を売っとけば、俺の未来も安泰って寸法さ」
「そこまで考えてるのね。流石は伊橋さん」
欲しかった情報をするすると喋ってくれた伊橋。
なるほど、この街を狙っているのはアメリカで活動しているエルツァーノファミリーらしい。
つまり、花奈を狙っているのはそのエルツァーノということになる。
確かに伊橋の言う通り、このままいけば街で覇権を握っている西宮会は潰され、エルツァーノファミリーが街を支配することになるはずだ。
そうなるならば、伊橋が今のうちにエルツァーノファミリーに恩を売っておこうとするのも賢明と言えるのかもしれない。
だが、そうだったとして。果たしてエルツァーノは伊橋を生かしておくだろうか。
始末する利がないうちは大丈夫かもしれないが、伊橋の所属する組織が邪魔になったら、むしろ伊橋の油断を利用して搾取できるだけ搾取し、そのあと組織ごと彼を潰すだろう。
だけど、今私がそれを言う必要はない。
この男からできるだけ情報を抜き取るのが、今夜の私の仕事なのだから。
「……ねえ、伊橋さん。私やっぱり、あなたのこと好きよ」
私は甘い声で甘い言葉を吐き、そのまま伊橋の手を掬い上げてぎゅっと握った。
「!」
「とっても先まで未来を見通して策を講じるところ、とっても魅力的。ね、どう?私と付き合わない?」
「……お前と付き合うことに、俺にメリットはあるのか?」
私の言葉とスキンシップに既に鼻の下を伸ばしているが、まだ裏社会の人間としての理性は残っているようだ。
だがそれは見越していたので、私はもちろん、と頷いてスマホを操作し、とあるページを提示する。
「なっ……⁉︎」
「これ、何かわかる?私の全財産」
見せたのは、偽造した銀行口座の口座情報ページ。
これは一時的にデータをハッキングして偽造したものだが、まあ私と怜悧の本物の口座もこれくらいの金額は入っている。
男も目を丸くして涎を垂らしそうになるくらい、莫大な金額だ。
「私をあなたの女にしてくれるなら、私の全部をあげる。私を裏切らない限り、このお金は全部あなたのものよ」
「……なるほど」
「私も、この危険な街での安泰が欲しいの。あなたと一緒ならきっと、それも叶えられる。もちろん私も最大限の協力は惜しまないわ」
表示されている0の数を数え、伊橋は笑みを浮かべた。
そして私の手を取り、腰を引き寄せ、恍惚とした表情を浮かべた。
「なら、お前の望む通りに。これからは、お前は俺の女だ」
「ふふ、嬉しい」
……ああ、罠にかかった。



