まあとはいえ、今更私たちの生き方がどうこうなんて言うほど現状に不満を抱いているわけじゃない。
バカな生き方をしているとは思うけど、生き残るために選んだ道だ、後悔はしていない。
私たちは私たちが欲しい「幸せ」のために仕事をするだけ。
それより上でもそれより下でもないし、この仕事が好きなわけでも嫌いなわけでもない。
ただ少し、私たちの思う「幸せ」に、仄かな憧れがあるだけだ。
「ねえ怜悧、もうすぐ貯金は目標額だけど。引っ越すとしたらどこがいい?」
「それなら、俺たちのことを誰も知らない場所がいいな。でも綺麗すぎない、ちゃんと俺たちが溶け込める汚い場所」
私たちが望む「幸せ」であり目標、それはまっさらな人間に生まれ変わること。
私たちは生まれたときから、後ろ暗いことをしていなきゃ生きていられなかった。
この危険で残酷な街にそういう人もいるのは仕方がないというのは百も承知。
でも、だとしても、どうしても私たちは「幸せ」になりたい。
「そこで真っ白で綺麗な人みたいな顔をして、七夏と一緒に暮らしたい」
「……そうだね」
命の危険も、所業がバレる可能性も、言葉の裏の駆け引きだって考えなくていい場所で。
ただ何も考えずに、笑って、平和に。
そんな暮らしをしてみたい。
今が辛いのではなく、それが尊いというだけだ。
でも、ずっとずっと憧れていた。……らしくないけれど。
プリンセスになりたい女の子のような、叶わない夢だと思っていた。
だけど――
「そのためには、次の『仕事』を成功させないとね」
「うん。ようやくだ。ようやく、準備が整う」
叶わないと思っていた、「平和」な暮らし。
それを叶えうる「依頼」が、舞い込んできたのだ。
「これを使えば、私たちはこの世界から出られる」
それは簡単であり難しく、辛いようで楽しく、濃密なようで空っぽな依頼。
この街で有力なヤクザ「西宮会」からの、とある頼み事だ。
『西宮 花奈の護衛と刺客への対処』
「それじゃあ、お仕事する?怜悧」
「そうだね。始めようか」
微笑んで、ぎゅっとお互いの手を握る。
私たちは生きている。そしてそうしている限り、私たちは私たちの好きに生きる。
そのために必要なことなら、なんだってやる。



