放課後。私たちは移動遊園地に遊びにきた。射的とかコーヒーカップとか色々あって、花奈も弦くんも満足のようだ。
そしてこの移動遊園地の最大の見どころ――移動遊園地とは思えないクオリティの観覧車に、みんなで乗ることになった。
もちろん、手筈通り二手に分かれて。
「あいつら、うまくいってっかなあ」
「うまくいってるといいね。花奈、春野くんのこと結構本気っぽかったし」
観覧車の中にて。
2人を案じるような弦くんの言葉に頷くと、弦くんは目を丸くしてすぐに「まじか!めっちゃ青春じゃん!」と輝くような笑顔を見せてきた。
「弦くんは、好きな人とかいないの?」
「俺?あー、まだそういうのわかんねえんだよなー。でも、七夏と花奈はめっちゃいい人だと思う!一緒にいて楽しいし!」
「ほんと?ありがと!私も弦くんといるのめっちゃ楽しいよ!」
夕暮れ時の遊園地を眺めながら、お互いに笑い合う。
素でこういうこと言っちゃうあたり、なんというか、弦くんも罪だよなあ。
さぞかしモテるだろう、なんて思いながら、私はふと気になり、一つ前のボックスに視線を向ける。
私たちの方が上にいる今なら、ちょうど覗けるからだ。
……花奈と、怜悧を。
「……花奈、楽しそうだね」
「おー、ほんとだ!頑張ってる頑張ってる」
花奈は、やっぱり少し頬を赤らめて、怜悧と楽しそうに話していた。
怜悧も怜悧で優しい顔で花奈の言葉に頷いているようだ。
最も、あの顔が素か作り笑顔かと聞かれると……まあ、作り笑顔のように見えるが。あくまでそれは憶測でしかない。
なんとなくそんな2人をじっと見つめていると、弦くんが今度は私に質問してきた。
「七夏は、好きなやつとかいねえの?」
「私も、弦くんと同じだよ。恋愛感情のこと、まだあんまりよくわかんなんくて」
「そっかー。まあそうだよな」
花奈が怜悧を狙うなら、やはり私は花奈の恋敵にならない方がいい。
でもそれをわかっていて「青春っぽい恋愛でもしちゃう?」なんて怜悧に言ってしまった。
結局は、私も目先の利益に盲目ということか。きっと怜悧に、その話に乗ってもらいたかったんだ。
本当に、恋愛感情って困る。
「――でもさ」
らしくもなく悩みそうになったそのとき、明るい声が聞こえた。
隣の弦くんから、私の考えなど知るよしもないだろうに、私の考えを見透かしたように。
「仮に俺たちがめっちゃ青春っぽい恋愛するとして。サンカクカンケーとかになっても、俺たちならなんか大丈夫な気がする!」
「……」
「ケンカしてもぜってー仲直りできる!から、あんま心配はしてねえな!」
「……ふふ、そうだね」
なんとかその言葉に返してから、私はそっと弦くんから視線を逸らす。
……「高校生」という薄っぺらい皮を被ってから、高校生活は新鮮なものばかりだ。
私をただ友人とだけ認識し、純粋に笑いかけてくる花奈や弦。
数学の授業中に眠りこけるクラスメイト。
教卓に足の小指をぶつけ悶える、そそっかしい教師。
朝早くから仲間と汗を流す運動部。
そして恋の話題に染まる頬に、私たちの間の絆を信じて疑わない目。
今までは、大企業の社長やら総長やら情報屋やら殺し屋やら、少なくとも「裏社会」での生き方を知っている相手が多かった。
そうでなくとも私の正体については警戒してきたし、その警戒を解いた後だって私に無防備に首筋を晒す真似はしない人の方が多かった。
だけどどうだろう。
私たちが「高校生」になってから、私たちは裏社会に存在するような「疑念」や「警戒」、「陰謀」や「憎悪」に触れていない。
好意、絆、言い方は様々だが、要するに、今の私たちは「表社会」に生きているということだ。
「…………」
観覧車は終わりに近づき、離れていた地上が鮮明に見えた。
笑顔の家族や高校生。
目に映るすべてが普通の日常に見え、同時にそれがとても尊いものに感じられる。
「……」
そのとき私は、確かに確信した。
私は――いや、私たちは。
「これ」を望んで、ここまで生きてきたのだ。
疑わなくていい。偽らなくていい。何人も人がいる状態で眠り、小指をぶつけ笑われ、2人きりの観覧車で笑顔になるような。
そんな生活が、ずっと憧れだった。
「……綺麗だね、景色」
「おう!」
私たちの憧れは、なんて眩しいんだろう。
今の私たちにとっては目が慣れなくて、肌にも合わなくて、違和感しかないけれど。
……でも、すごく心地いい。



