天邪鬼な私に、宣戦布告されました

『大好きな颯斗を振ってやった気分はどうだい?』

鬼太がニヤニヤしながら、私の枕の横でふんぞり返る。

「うるさいな、鬼太」

天井を見上げたまま返す。

あの後、告白なんてなかったみたいに、みんな普通だった。

笑って、からかって、拍手して。

――あんなに大きな言葉があったのに。

「でもさ」

私は寝返りを打つ。

「颯斗があんなふうに私のこと想ってくれてたなんて、知らなかった」

鬼太のニヤけ顔が、ふっと消える。

『あいつはな、本気だったぞ』

「え?なんでわかるの?」

私は上体を起こす。

鬼太は少しだけ目を細める。

『修学旅行までの間、どんどん居心地が悪くなっていったんだよ』

「居心地?」

『俺の颯斗の中での居場所』

短い足を組む。

『沙彩への気持ちが膨らむほど、あいつは自分の言葉と本心のズレが苦しくなっていった』

少し間。

『あいつは俺を知らないからな。追い出そうとしてたわけじゃない。ただ、自分で変わろうとしてただけだ』

「……」

『優しい沙彩に近づきたいってな』

胸が、ちくりとする。

「優しい?私が?」

鬼太は鼻で笑う。

『自覚ないのかよ』

小さな手で額を叩く仕草。

『沙彩は俺が見えてただろ?だから颯斗が空気を乱しても“鬼がいるから仕方ない”って顔してた』

確かに。

私はみんなみたいに、露骨に嫌な顔はしなかった。

遠巻きにも見なかった。

「それって、鬼太がいたからでしょ」

ぽつり。

「今はもう、鬼太は颯斗の中にいない。
だったら、私を好きだった理由も、薄れちゃうんじゃないの?」

鬼太はしばらく黙る。

そして肩をすくめる。

『それはない』

あっさり。

『いくら俺のせいだとわかっていても、嫌なこと言われて顔に出さない人間なんてそうそういない』

視線がまっすぐ向けられる。

『鬼が見えても見えなくても、沙彩の優しさは変わらない』

静かな部屋。

エアコンの音だけが響く。

「……鬼太が、そんなこと言うんだ」

鬼太はふいっと横を向く。

『勘違いするなよ。俺は愛なんて知らねぇ』

ぶっきらぼうに続ける。

『ただ、居心地でわかるだけだ』

そして、ぼそっと。

『あいつの中は、今もお前でいっぱいだ』