
あれから嵐のように日々が過ぎ去った。
青い空と輝く陽光。
やわらかな風が吹く五月のある日。
「おい、着替え終わったか。あんまり気張った格好すんなよ、肉焼くだけなんだから」
リビングで待つTOMAは、ラフな白Tシャツにデニムというプライベート感溢れる姿だった。
「はい。あの、これで大丈夫でしょうか……?」
苺依が選んだのは、動きやすさを重視した淡いイエローのTシャツと薄手のパンツ。
TOMAは苺依の全身を見て、すぐに鼻を鳴らして視線を逸らした。
「ま……いいんじぇね。行くぞ」
「はい!」
車で向かったのは、都内の閑静な住宅街にある一軒の大邸宅。
そこは如月グループ副社長であり、TOMAの兄である耀一(よういち)の自宅だった。
事の発端は数日前にさかのぼる。
珍しく早く帰ってきたTOMAと夕食をともにしたあと、電話がかかってきた。
相手はTOMAの兄、耀一さん。
次の連休でバーベキューをやるから来れるなら来いよ、とのことだった。
「あ、彼女も一緒にね」
「は? なんで……」
「來三(くるみ)も会いたがってたよ。親父に啖呵切ったんだって? 俺もどんな子か会ってみたいしな」
「はぁ……わかったよ」
「来れそうか? 無理しなくていいからな。じゃまたな」
お兄さん絡みになるとTOMAはあまり強く断れないらしい。
そういう流れで今日、初めてTOMAのご兄姉に会う日。
招待されたことは嬉しい。
移動の車内は少しばかりの緊張とワクワクがひしめき合っていた。
*
「いらっしゃい。君が征志郎の?」
「あ、はい! 初めまして、高階苺依と申します」
「みんなは?」
「ああ、もう来てるよ。奥にいるから」
「わかった。行こうぜ、苺依」
「はい」
(っていうか副社長の自宅に平社員が来ていいのかな……)
そんなことを考えていたら庭の奥から賑やかな笑い声が響いてきた。
「おー、来た来た! 噂の義妹(いもうと)ちゃん、可愛いねぇ」
ひらりと手を振って近づいてきたのは、次男の悠二(ゆうじ)。
如月グループ専務という肩書きに似合わない、着崩したシャツと甘いマスク。
どこからみてもモテ男だ。
「悠兄(ゆうにい)、近いって。苺依、悠兄の言うことは全部無視していいからな」
TOMAが反射的に苺依の肩を抱き寄せ、自分の背後に隠す。
「おっと、怖い怖い。征志郎、そんなに必死にならなくても取らないよ……今はね?」
「悠兄ぃ……」
悠二がニヤリと笑うと、今度は背後から凛とした声が響いた。
「悠二兄さん、初対面の人をからかうのはやめてよ。こんにちは、私は征志郎の姉の來三(くるみ)です」
「は、初めまして! 高階苺依と申します!」
來三さんはモデル顔負けのスタイルでかなりの美人さんだった。
「征志郎が変なことしてない? 何かあったら私に言ってね。あ、そうだ! 昔の泣き虫だった頃の写真、あとで見せてあげるわ」
「るみ姉ぇ、そんなん見せなくていいから」
「あら、いいじゃない。あの頃の征志郎ってば本当に可愛かったんだから」
TOMAが顔を真っ赤にして叫ぶ。
その光景は、テレビで見せる「完璧なアイドル」ではなく、兄姉に振り回されるただの末っ子。
初めて会ったあの光景からは想像もつかないほどの暖かな光景だった。
――To be continued

