推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜



 得体のしれない空気が二人を包む。
 それを切り裂いたのはTOMAだった。

「先に向こう行ってる……さっさと着替えてこいよ」
「あ、はい!」

 二十分後、着替えを終えた苺依はリビングに向かう。
 また首筋が熱い……。
 緊張したままリビングに入ると、ソファでスマホをいじるTOMAがいた。

「おっせぇよ、いちご。なぁ、腹減った」
「なにか作りましょうか」
「カップラーメン」
「え?」
「ラーメン」
「食べたいんですか?」

 アイドルでもカップラーメン食べるんだ、とか思っちゃった。
 そりゃ食べるか。
 そういえば、あの会場で食べる予定だったからお腹空いてきた。

「これ、作れ」

 TOMAが袋麵を二つ苺依に渡した。

「わかりました。すぐに作りますね」

 とは言ってもお湯を沸かすだけなのだが。
 でも、その間TOMAがずっとキッチンにいた。

「…………」
「…………」

 何も言わずにただ立っているTOMAの気配を背後に感じる。
 TOMAが少し動くとビクリと反応する苺依。

「なんだよ」
「いえ……なにも」

 今度はTOMAがゆっくりと近づいてきた。

「……あ、の……」

 TOMAの意図がわからず苺依は身構えた。
 至近距離でゆっくりと近づいてくるTOMAの顔。
 後ろは引き出しにぶつかっって逃げ道はない。

「TOMA、さん……ちょ、あの……」

 TOMAの腕が苺依を通り越してキッチン台に置かれる。
 そしてもう片方の腕が伸びてきて……。

「え……え、ちょ、TOMAさん……」
「…………」

 もうこのままでは……!
 触れそうになる唇を前に、苺依はぎゅっと目をつぶった。
 しかし、待てど暮らせどその時は来ず。
 変わりにTOMAの声が落ちてきた。
 
「おい、いちご……邪魔」
「え?」

 バッと目を開けると、TOMAの手は引き出しの取っ手に。

「え……え?」
「だから邪魔だって。箸、取れねぇ」
「あ……ああ! お箸! すみません!」

 慌ててその場から離れる苺依。
 
(キ、キスされるかと思ったー!!!)

 恥ずかしすぎて穴があれば入りたい。

「もしかして……」
「へ?」
「なんか期待した、とか?」

 意地の悪い笑みを浮かべたTOMAが聞いてくる。
 そして反射的に……

「は、はあ!? なに言ってるんですか。そんなことあるわけないじゃないですか」
「へーえ? 自意識過剰なのかと思った」

 口角を上げたTOMAに苺依は顔を真っ赤にして突っかかった。

「自意識過剰!? ほんとあり得ません! なんとも! 思ってませんから!」
「はいはい。ほら、お湯沸いたぞ」
「私持っていくので、お箸持って向こうで待っててください」
「……わーったよ」

 苺依はカップラーメンにお湯を注いだ。
 結局、その後はいつも通りだった。
 部屋に入り、寝ようとするもなかなか落ち着かなくて眠れない苺依。

 同じ時刻、TOMAの部屋。

「………」

 さっきから、台本のセリフが一行も頭に入ってこない。

「……チッ……クソ……」

 TOMAは台本を放り投げベッドへと倒れ込んだ。
 この言葉に出来ない感情に、苛立ちだけが熱を持って膨らんでいった。
 
――To be continued