
マンションの玄関を閉めた瞬間、TOMAは言った。
「おい。そのドレス、さっさと脱いでこいよ」
「わ、分かってます。今着替えてきますから」
苺依は逃げるように部屋へ駆け込んだ。
けれど、十分が過ぎ、十五分が過ぎても、苺依は戻ってこない。
「おい、寝てんのか?」
しびれを切らしたTOMAがドアを開けると、そこには鏡の前で、背中に手を回して必死にもがいている苺依の姿があった。
真紅の布地が、白い背中を中途半端にさらけ出している。
「あ……TOMAさん。あの、ファスナーが噛んじゃって……手が届かなくて」
顔を真っ赤にして見上げる苺依に、TOMAは低くため息を吐いた。
「はぁ……貸せ。あんた、本当どんくさいな」
TOMAが苺依の背後に立つ。
食い込んだ布を丁寧に解していると、ふわりと香る香水の匂い。
「っ………なぁ」
「はい」
「本当にあいつに、何もされてねぇか?」
「はい! もちろんです。ランチの時も、ずっと怖いこと言われてただけで、指一本触れられてません」
「ランチも一緒だったのかよ」
「あ、それは………すみません」
どれほど一緒にいれば、こんなにも匂いが移るのか。
想像しただけでTOMAの中に黒い感情が渦巻く。
――ジジジ……
固く動かなかったファスナーがゆっくりと下ろされていく。
そのたびに、苺依の滑らかな肌が露わになる。
TOMAの指に思わず力がこもる。
鏡越しにTOMAを見ていた苺依はその険しい表情からまだ彼が怒っているのだと勘違いした。
(やっぱり、どんな事をしてでも行くべきじゃなかった………!)
そんな苺依の心配をよそに、TOMAは細い両肩に手を置いた。
「……?」
「…………」
何も言わないTOMAに苺依が不思議がる。
「あの、TOMA……さん?」
「…………」
――チュッ……
「っ!!??」
驚き過ぎて声が出なかった。
苺依の首筋にTOMAの唇が落ちたから。
――チュッ、チュッ……
繰り返される甘い口づけ。
苺依は状況が飲み込めず、ただ体を強張らせていた。
――チュッ、チュッ、チュゥゥ……
リップ音が苺依の耳をくすぐる。
すると、背後から大きな両腕でがっちり抱きしめられて、その首筋にTOMAが顔を埋めた。
そして深く、深く、苺依の香りを吸い込む。
「ひゃっ……あ、あの……TOMA、さん……」
「…………」
――すぅぅぅぅ……チュッ
「っ……TOMAさんっ!」
苺依の声でTOMAはようやく気づく。
「……あ」
(今、俺……何して……)
真っ赤になった苺依と、呆然と自分の唇に手を当てるTOMA。
気まずい沈黙が流れる。
そこにはまだ名前のない感情が確かに存在していた。
――To be continued

