
抜け出した先にはTOMAが用意した車があり、後部座席に乗り込んだ。
オークション会場の喧騒は遠ざかり、車内には二人の荒い呼吸だけが響いていた。
苺依は、まだ震えが止まらない手で、自分の膝を握りしめる。
「……ったく、心臓に悪っ」
隣に座るTOMAが、苛立ったようにキャップとマスクを放り投げた。
その横顔は、まだ怒りが収まっていないように険しい。
「あんたも知らない男について行くなよ」
「ご……ごめんなさい。迷惑かけてしまって……なんとか抜け出そうとしてたんですけど……」
震える苺依の声。
「謝んなくていい。でもな、あんな男にホイホイついて行くなんて危機感なさすぎ」
「ホイホイなんて! あの人がTOMAさんのスキャンダルをネタに脅してきたから仕方なく……!」
「あんた、バカか。俺がそんなことで潰れると思ってんのか?」
TOMAが苺依をドア際まで追い詰める。
あまりの至近距離に苺依は思わず息を呑む。
「……でも、私のせいでもし……」
「『もし』なんてねぇんだよ。俺を誰だと思ってんだ」
TOMAは苺依の顎をクイッと持ち上げると、そのまま逃げ場を塞ぐように、その首筋に顔を埋めた。
「……っ!? あの、TOMAさん……?」
「……動くな。あいつの匂いがする……」
「え……」
「チッ……」
(ムカつく……)
首筋に感じるTOMAの熱い吐息と、低く唸るような声。
「……このドレスも、あいつが用意したのか?」
「っ……」
苺依は黙ってうなずく。
俯くその先にはギラギラと輝くネックレスが。
「で、これは?」
指先でそのネックレスを引っ掛ける。
「それは、久賀様が勝手に……」
「………はぁ」
深い深いため息。
TOMAは額を抱えて項垂れた。
「あ、あの、TOMAさん?」
「…………」
「本当にごめんなさい。今後はこのようなことがないようにしますから……」
「…………」
(やっぱり許してもらえない、よね?)
「今からでも契約はなかったことに…………」
言葉を遮るように、TOMAは苺依の腰に腕を回し、折れそうなほど強く引き寄せた。
「悪かったと思うなら反省しろ、苺依。俺が来るまで、一分一秒でも、あいつの隣にいた自分を……二度と、他の男の言いなりになんてなるな」
「はい…………すみません」
苺依が消え入りそうな声で返事した。
満足そうに微笑んだTOMAはようやく苺依を解放した。
――To be continued

