
――バチッ!! フッ……
会場の照明が、一瞬にして落ちた。
(な、なに……)
「なんだこれは!」
「どうなってるの?」
「何も見えん! 誰か照明を!」
周りからも戸惑いの声が聞こえる。
そんな暗闇の中。
ふわりと鼻を掠めるあの香り。
(っ!? まさか……)
苺依の腕が誰かによって強く引かれた。
「……っ!?」
声を出そうとした瞬間、大きな手が苺依の口を優しく塞ぐ。
「……しっ。静かにしてろ、バカ」
耳元で響いたのは紛れもなくあの低い声。
「走るぞ」
「…………」
見えないけれど、苺依は何度も強く頷く。
力強く握られた手から安心が伝わる。
いくつか扉を通り越すと照明が戻った。
「うっ……」
明るさを取り戻した苺依は一瞬目がくらんだ。
そしてそこにいたTOMAは漆黒の服にサングラス、キャップを深く被り、黒いマスクで顔を隠していた。
「……!? TOMAさん!」
「……あんた、スマホ」
「あ……」
そういえば着信の後からずっと見ていなかった。
「ごめんなさい……」
「謝んな。あんたに持たせたスマホ、俺の端末と位置情報を同期させてたんだよ」
「えっ!? いつの間に」
「こういう時のために、な」
「それでこの場所が?」
「ああ。動かなくなったGPSの場所が、ここだった。ここは久賀家の所有する会場だしな」
「そうだったんですね。でもどうやって中に」
「それは、まぁ……」
TOMAはサングラスを外しながら深いため息を吐いた。
「使いたくはなかったけど、如月家のツテ使って裏口のセキュリティやらシステムをいじった」
「ええぇぇ!?」
「とりあえず急ぐぞ。見つかったら厄介だ」
「は、はい!」
TOMAは苺依の手を引き寄せ非常口へと導く。
しかし、非常扉を開ける直前。
背後から、凍りつくような冷ややかな声が響いた。
「……逃がすわけないだろう? 征志郎」
振り返ると、そこには予想通りと言わんばかりの表情で久賀がいた。
余裕の笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。
「……不法侵入にハッキングかな? トップアイドルも落ちたものだ。今ここで警備員を呼べば君のキャリアは終わる。さあ、その手を離すんだ」
絶体絶命の瞬間。
TOMAは逃げるのをやめ、苺依を自分の背後に隠すと、マスクを外して久賀を正面から睨みつけた。
「呼びたきゃ呼べよ」
「いいのか?」
「いいぜ……その代わり、あんたが親父さんの裏金問題をもみ消そうとしてる証拠、今すぐリークしてやるよ」
「……なに?」
久賀の表情が、初めてピキリと凍りついた。
TOMAは不敵に笑い苺依の手をさらに強く握りしめる。
「お前らの汚いゲームに、こいつを巻き込むな。今度こいつに手出したら容赦しない」
「へえ? それは楽しみだなぁ」
「行くぞ、苺依」
「あ……は、はい!」
TOMAはそう吐き捨てると、苺依の肩を抱き寄せた。
その瞳は、今までに見たことがないほど、激しく真っ直ぐに苺依だけを映していた。
――To be continued

