
苺依が困惑しながらもされるがまま。
着替えを済ませメイクとヘアセットを施される。
鏡の前に立ち、目もくらむような真紅のドレスに身を包んでいた。
(ほんとうに、どうしよう。このままじゃ……)
ちょうどその頃。
打ち合わせを済ませたXENOのメンバーとともに控室にいたTOMA。
仕事の合間に苺依へ送ったメッセージに既読がつかないことを訝しんでいた。
(……おかしい。あいつが俺のメッセージに気付かないことはないはず……)
胸をざわつかせる不吉な予感。
何度か着信を鳴らしてみても出る気配はない。
(電話も出ない……。変だな)
「お待たせしました。XENOの皆さま、ご移動お願いします」
「はーい。行くぞ、お前ら」
「はーい」
「はいはい」
「…………」
「トマ?」
「え?」
「早く行くぞ」
「あ、ああ……」
心に針が引っかかったまま、TOMAはスタジオに向かって行った。
***
着替えとメイクが終わった苺依はホテルの最上階にいた。
そこは一般客が立ち入ることのできないVIP専用のプライベート・ダイニング。
陽光が降り注ぐ明るい空間とは裏腹に、苺依の心は冷たい檻の中に閉じ込められたようだった。
「食べないのかい? ここのシェフは、僕の好みを熟知しているんだ。君の口にも合うはずだよ」
久賀は優雅な手つきでナイフを使い、まるでチェスの駒を動かすような正確さで料理を口に運ぶ。
「……恐れ入ります。ですが、仕事中にこのような……」
「『仕事』だよ。僕の話し相手をするというね」
久賀はワイングラスの縁を指でなぞり、ふっと目を細めた。
「征志郎とは、昔からの付き合いでね。あいつは幼い頃から裕福な家庭環境にいた。だから、手に入らないものがあると、子供のようにムキになるんだ」
久賀の視線が、苺依を射抜く。
「君という『おもちゃ』も、その一つなんだろう? 紗良への当てつけか、あるいは単なる一時的な情熱か……可哀想に。あいつに飽きられた後、君に何が残るか考えたことはあるかな?」
「……っ。征志郎さんは、そんな方ではありません」
思わず言い返した苺依に、久賀は声を立てて笑った。
その笑みには、一切の温もりがない。
「純愛を信じているのかい? 滑稽だね。如月の名を継ぐ男が、君のような『部外者』を本気で選ぶはずがない。彼は、最後には必ず、僕たちのいる『こちらの側』に戻ってくるんだよ」
久賀はテーブル越しに苺依の顔を覗き込んだ。
「夜のオークションまでに、よく考えておくといい。征志郎のキャリアを台無しにしてまで、その腕にしがみつく価値が君にあるのかをね」
デザートの銀の皿に反射する、自分の青ざめた顔。
久賀の言葉は、まるで遅効性の毒のように、ゆっくりと苺依の自信を蝕んでいった。
――To be continued

