推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜



 あの後、どうやって仕事をこなしたのかよく覚えていない。
 休憩中に調べた彼女の経歴は輝かしかった。

 東堂紗良(とうどうさら)、25歳。
 如月家に並ぶ名家で華々しい経歴の持ち主。
 文武両道で学生時代はいつもトップ。
 乗馬と体操が得意で、かつては全国大会にも出場していた。
 社交界デビューを果たした後は自身のブランドを立ち上げ成功させている。

 どこを見ても自分とは天と地の差。
 なにもかも劣る。

「調べるんじゃなかった……」

 気付けば帰路だった。
 重い足取りでマンションの扉を開けた。

「……ただいま」

 無意識に出る挨拶。
 誰もいなくても習慣になっている。
 だけどこの日は違った。

「おかえり」

 いつもなら遅いはずのTOMAが、今日は苺依よりも先に帰宅していた。
 
「……っ!? TOMAさん、今日は早かったんですね」
「ああ。仕事が早く片付いたからな」
 
 TOMAは短く答えると、無造作に雑誌をめくり始めた。
 苺依は安堵しつつ、内心の動揺を隠してキッチンへ向かう。

「お腹、空いてますか? 何か作りましょうか」
「いや、後でいい。それより……」

 キッチンに向かってきたTOMAはテーブル越しに苺依を見つめた。
 
「いちご…………様子が変だが何かあったか?」
「え……? な、なにも……ないですよ」
「嘘だな」
「嘘じゃ……」
「東堂紗良」

――ビクッ!

 その名前を聞いただけで、苺依の体が強張る。
 そしてTOMAは確信した。

「やっぱりな。来たんだろ」
「……いいえ、特に何も。いつも通りの一日でしたよ」

 努めて明るく、作り笑いを浮かべる苺依。
 TOMAは腕を組み深くため息をついてじっと苺依を見つめた。

「来たんだな。あんたが嘘ついてんのは分かってる。予想はしてたんだ」
「…………」

 答えきれずに俯く苺依にTOMAが近寄る。

「……苺依。隠し事はナシだ。俺に迷惑がかかるって思ってんのか?」

――To be continued