
「……失礼ですが、お父様」
苺依は、自分でも驚くほど凛とした声で一歩前に出た。
「虚像だなんて、一番近くで見守ってきたはずのお父様が言っていい言葉じゃありません。私は如月の名前なんてどうでもいいです。私が大切にしたいのは、不器用で、口が悪くて、でも誰よりも一生懸命に自分の道を切り開こうとしている、一人の『人間』としての征志郎さんです!」
「何だと……?」
「金に目が眩んだとおっしゃるなら、どうぞ。でも、征志郎さんがこれまで流してきた涙や汗まで、お金で買えるなんて思わないでください!征志郎さんの隣にいる権利は、お父様が決めることじゃありません。征志郎さん本人が決めることです!」
征十郎は、呆気に取られたように苺依を見つめている。
やがて、彼はふいと視線を逸らし鼻を鳴らした。
「……身の程知らずな女だ。征志郎、お前には過ぎた盾のようだな」
張り詰めていた空気がわずかに緩む。
「高階……と言ったか」
「はい」
「如月の家に入るということは、これまでの平穏な人生をすべて捨てるということだ。分かるな」
「はい」
「正直、君とは住む世界が違う」
「………」
「親族の嫉妬、世間の目、そして底知れない孤独との戦い。君に、泥を啜ってでも征志郎を支え続ける……地獄へ付き合う覚悟があるのか?」
低く、地を這うような声。
脅しのような言葉。
苺依は、その圧倒的な威圧感に思わず肩を震わせ、一歩後退りそうになった。
隣から感じるTOMAの温度を感じながら、苺依はギュッと自分の服の裾を握りしめ顔を上げた。
「……私は……私は、絶対に征志郎さんを不幸になんてしません!」
「何だと?」
「如月の名前があろうとなかろうと、征志郎さんを幸せにするのは私です。お父様が認めなくても、私が、征志郎さんの味方であり続けます!」
言い切った。
苺依の肩はまだ震えていたけれど、その瞳だけは征十郎を真っ向から見据えて、一歩も引かなかった。
――To be continued

