
扉の向こうから現れたのは、如月グループ会長、如月征十郎。
その場を支配するような圧倒的な覇気に、苺依は再び背筋を正した。
(すごいオーラ……この人が、TOMAさんのお父さん……)
ヒリつく空気を裂くように、征十郎の声が響く。
「……何の冗談だ、征志郎。そんな一般人の娘を連れてきて、婚約だと?」
征十郎は椅子に深く腰掛け、組んだ足の上で指を組んだ。
その視線は、苺依を人間ではなく、道端の石ころでも見るかのように冷ややかだ。
絡まった視線で体温がすぅーっと下がるのを感じる。
「冗談じゃない。俺は、親父の操り人形になる気はないって言ってるんだ。俺は、自分が選んだ彼女と結婚する」
TOMAが苺依の肩を引き寄せる。
その指先から伝わる温もりを苺依は感じ取っていた。
「フン……。お相手のご令嬢はお前にはもったいないほどの方だ。一度会えば、その娘がいかに見窄らしいか理解できるはずだがな」
「断る。俺には、苺依がいれば十分だ」
名前を呼ばれて顔を上げると、征十郎と視線がぶつかる。
ここにきて、挨拶する暇がなかったことを思い出し苺依は慌ててお辞儀した。
「は、初めまして! 征志郎さんと結婚を前提にお付き合いしております、高階苺依です」
突き刺さる視線を感じていると征十郎が口を開いた。
「……娘よ」
囚われた獲物の気持ちで次の言葉を待った。
「如月の資産に目が眩んだか? 分不相応な夢を見るのは勝手だが、この男を本当に愛している者など、この世には存在せん。こいつは如月のブランドという『虚像』でしかないのだからな」
「なん、だと……」
TOMAの体が、屈辱でこわばる。
(……虚像? 誰からも愛されない?)
その言葉に、苺依の胸の奥で何かがパチンと弾けた。
「……失礼ですが、お父様」
苺依は、自分でも驚くほど凛とした声で一歩前に出た。
――To be continued

