推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜



 しばらく走り続けた車は、都内屈指の高級住宅街にある、巨大な鉄門の前で停まった。
 ゆっくりと開く門を潜り抜け、また車が走り出す。
 ご対面の瞬間が近づくにつれ、苺依の緊張も高まっていく。

(やっぱりすごい家……どんな人なんだろう。大丈夫かな……)

 不安で心が押し潰されそう……。

――――ぎゅっ…

「……!?」

 繋いだままの手を彼が強く握り返した。
 まるで『大丈夫だ』と言わんばかりに。

(TOMAさん……)

 自分だって緊張しているだろうに。
 TOMAの目は苺依の不安を薙ぎ払うように強く輝いていた。

「……大丈夫だ……苺依」

 初めて名前を呼ばれて胸が鳴る。
 苺依は無言で頷き、TOMAの手を握り返した。
 
 ふっ、と。
 TOMAの唇に、今日初めての笑みが浮かんだ。

 やがて車が停車し、扉が開く。
 案内されるままに広い応接室へと導かれた。
 なんとも言えない重厚で荘厳な雰囲気が漂う。
 場違いな場所に迷い込んだ羊の気分。

(ダメだ、足がすくんで立てなくなりそう……。私なんかが、本当に務まるの?)

 空間に押しつぶされそうになる苺依。
 膝の上で握りしめた拳が、小刻みに震える。

 その時、隣に座っていたTOMAが、無造作に苺依の手を掴んだ。

「……冷てぇぞ。死人かよ」
「っ、あ……」
「……悪ぃな、こんなことに巻き込んじまって」

 TOMAは苺依の手を包みこみながら、らしくない言葉を放った。

「そんな……」
「……あんたをここに連れてきたのは俺だ。何があっても、俺が守ってやる。だから安心しろ」
「………」

 まるで王子様のような台詞。
 でも今の苺依にはこれ以上ない魔法の言葉。

「はい。ありがとうございます」
「頼んだぞ、いちご」

 にわかに見せた彼の微笑みに、苺依の震えは消えていた。
 そして、重たい扉が開いた……。

「待たせたな」

――To be continued