
「TOMAは芸名。本名は、如月……征志郎(せいしろう)だ」
そう言ってTOMAはサングラスを外し、ゆっくりとテーブルに置いた。
そこにはアイドルとしてではなく、ただの男……如月征志郎として座っていた。
「親父は如月征十郎。母親は成瀬志乃。元売れない女優だったらしい」
「女優さん、だったんですね」
「親父と結婚したのも金と女優として売れたい、ってのもあったのかもな」
「…………」
「ま、離婚して俺は親父に引き取られたけど、親父は仕事、金、後継者しか頭にない」
「そんなこと……」
ない、なんて言えないけど、否定してあげたくなった。
でも言葉が続かない。
「親父と話した機会はほとんどない。いつも家には兄さんや姉さん、それと家政婦がいたから」
遠くの方を見つめる彼の眼には何が映っているのだろう。
悲しい色したその瞳から目が離せなかった。
「ご兄姉とは仲が良いんですね」
「ああ。俺がこうやってアイドルやってられるのも兄さんや姉さんのおかげだ」
兄姉を思い浮かべる彼の表情は柔らかい。
きっと彼にとって心の許せる人たちなんだと分かるくらい。
「そういえば……本名、初めて知りました」
「……あぁ、公表してねぇからな。バラすなよ?」
「そんなことしませんよ」
「あと、如月家では俺のことは征志郎って呼べよ」
「え……急にそんな」
「婚約者なんだから普通だろ」
「あ……」
「ほら、呼んでみろ」
「せ、征志郎…………さん」
急に改まって呼ぶのは気恥ずかしくて、苺依は少し俯いた。
「………ん。まぁまぁだな。名前間違えんなよ」
「はい。頑張ります」
数分後、店の前に迎えの黒塗りの車が静かに停まっていた。
「じゃ、行くか」
スッと彼が手のひらを差し出した。
苺依は迷いなくその手を掴み彼と共に車の後部座席に乗り込んだ。
――To be continued

