ダウナーちゃんは死にたがり

不意に、自分の名前が出された。

「……?」

ぎょっとして、恐る恐る顔を上げる。

すると、クラスの半分くらいがこちらを見ていた。

「相馬さん、ジュリエットとかどう?」

キラキラと目を輝かせた女子が、期待に満ちた顔でこちらを見ている。

「…………」

ジュリエット。

つまり、台本を覚えて、みんなの前に立って演技をする。

……めんどくさい。

反射的にそう思った。

けれど、目の前の女子はものすごく期待した目をしている。

たぶん、ここで断ったら理由を聞かれるだろう。

なんで?

嫌なの?

他にやりたい役ある?

裏方がいい?

……説明するほうが、もっとめんどくさい気がした。

「…………」

数秒考えた末に―――。

「……いいよ」

気づけば、頷いていた。

「よっしゃあ!」

「相馬さんジュリエット決定!」

「絶対似合うって!」

一気に教室が沸く。

……決まってしまった。

私の意思というより、

断るのが面倒だっただけなんだけど。

まぁ、いいか。

台本を覚えるくらいなら、たぶんできる。

そんなことを考えていると。

「…………え?」

後方から、間の抜けた声が聞こえた。

見ると、亮哉が固まっている。

「……何」

「いや……」

亮哉は数秒、私を見つめたあと眼鏡をあげて口を開いた。

「本当にやるの?」

「うん」

「……意外」

「そう?」

「てっきり、裏方に逃げると思ってた」

「私もそのつもりだった」

「じゃあ、なんで?」

「断るほうが面倒だったから」

「…………」

亮哉が黙った。

そして、呆れたように小さく息を吐く。

「相馬らしいね」

「褒めてる?」

「まぁ......一応。」

「一応か...」

私は再び黒板を見る。

そこには、大きく書かれた『ロミオとジュリエット』の文字。

……ジュリエットか。

私が劇の主役なんて、なんだか変な感じ。

でも。

昨日、文化祭までは生きようと思えた。

なら。

一度、役として死んでみるのもいいかもしれない。