* * *
「……ん」
伊織のまつげが、ゆっくり震える。
ぼやけた視界の先に、橙⾊の光。
そして――
「起きた?」
低い声。
伊織は数秒かけて焦点を合わせる。
「あれ……宇野くん?」
「他に誰がいんの。」
教室はほとんど無⼈だった。
窓の外はもう、⼣暮れというより夜の⼊⼝。
伊織は⾝体を起こそうとして、肩にかかったブレザーに気づく。
「……これ」
「俺の。」
「ふーん」
驚きもしない。
ただ、ゆっくり袖を指でなぞる。
「勝⼿にかけた。」
「知ってる。」
「嫌だったら返して。」
伊織は⼀瞬だけ考えて、⾸を横に振った。
「……まだ寒いから、借りとく。」
亮哉は⼩さく息を吐く。
「帰るぞ。最終下校、近い。」
「……送ってくれるんでしょ。」
眠気の残る声。
「寝ぼけてた時のやつ、覚えてんの?」
「覚えてるけど。」
亮哉は少しだけ⽬を細める。
「……仕⽅ないな。」



