「あーはいはい、相⾺が無⾃覚なのは分かったから。」
そして亮哉はそのまま、調⼦が狂う、とでも⾔うかのようにサラサラの
⿊髪をぐしゃぐしゃとかきながら伊織から数歩距離を取った。
距離を取られたことに、伊織は特に何も感じていない顔をしている。
「……なんの話?」
⾸を少し傾げるだけ。
亮哉は数秒、黙ったまま伊織を⾒た。
⾵が吹く。
アッシュグレーの髪が揺れて、⻑いまつげの影が頬に落ちる。
昨⽇フェンスの向こうに⽴っていたとは思えないほど、無害な顔。
「……相⾺さ」
「ん」
「⼈の⼼臓、⽌めにくるタイプ?」
「は?」
本気で意味が分からない、という顔。
亮哉は⼩さく息を吐く。
「距離、近すぎ。」
「別に、キスしたわけじゃないし。」
さらっと⾔う。
亮哉は⼀瞬⾔葉に詰まった。
「……そういう問題じゃなくて」
「宇野くん、顔⾚いよ。」
「相⾺のせいに決まってんだろ」
即答。
伊織はじっと観察するように⽬を細めた。
「ふーん。動揺、するんだ。」
その⾔い⽅が、妙に静かで、妙に柔らかい。
亮哉はフェンスにもたれ直し、視線を逸らす。
「……相⾺が予測不能なだけ。」
「それ、褒めてる?」
「半分くらいは?」
沈黙。
遠くで体育の歓声が上がる。
伊織はポケットからイヤホンを取り出し、⽚⽿だけつけた。
⾳楽は流さない。
「ねえ」
「ん?」
「昨⽇さ、“⾒届けたい”って⾔ったよね。」
亮哉の喉がわずかに動く。
「⾔った。」
「どういう意味?」
⾵が⼀瞬、強く吹いた。



