「具体的には?」
「……たまに、話し相⼿になって。」
短い⾔葉。
それだけ。
屋上の⾵が、⼆⼈の間を通り抜ける。
亮哉は数秒黙ってから、頷いた。
「別にいいけど。」
「ありがと。」
伊織は⼩さく息を吐く。
フェンスの向こうを、もう⼀度だけ⾒る。
さっきより、少し遠く感じた。
「じゃあさ」
亮哉が⾔う。
「次死にたくなったら、俺に⾔って。」
「……なんで?」
「⾒届けたいから」
伊織は⼀瞬ぽかんとして、それから肩を震わせた。
「ほんと、悪趣味。」
「知ってる」
チャイムが本鈴に変わる。
伊織はゆっくりと踵を返した。
「五時間⽬、サボる?」
「相⾺が⾏くなら⾏く。」
「めんどくさ。」
「同感。」
⼆⼈並んで、屋上の扉へ向かう。
伊織は⼀度だけ振り返る。
あの縁は、いつでもそこにある。
逃げ場として、ちゃんと存在している。
――だから、今⽇はいいや。
静かにそう思った。
………そう、思えた。
扉が閉まる。
屋上には、まだかすかに煙の匂いだけが残っていた。


