説得でも、慰めでもない。
ただの持論だ。
「選択肢なんて、別に欲しくない。」
伊織は⼩さく呟いた。
「選ぶのとか、疲れるし。」
「だろうな。」
否定しない。
「でもさ」
亮哉は伊織を⾒る。
「相⾺、さっき笑ったじゃん。」
伊織の⼼臓が、ほんのわずかに跳ねた。
「……いつ?」
「タバコの下りのとき。
“今更健康気にしなくていっか”って。」
伊織は視線を逸らす。
「こんなクソつまんねー人生でも、笑える瞬間があるんなら、
まだ完全に飽きてはないんじゃない?」
その⾔葉に、伊織は返事をしなかった。
代わりに、イヤホンを⽿につける。
⾳楽は流さないまま。
外界との、薄い遮断。
「はぁ........今⽇死ぬのやめた。」
ぽつり。
「宇野くんのせいだよ」
「マジか、光栄だな」
「責任取ってよ。」
冗談めかした⼝調。
けれど、⽬は笑っていない。
亮哉は少しだけ⾸を傾げた。



