面識のなかった同級生と名前のない関係になったら、隙間なく重なる相性で離れられなくなった【完結】

 本日金曜日がデッドラインの仕事がある。

 予定通りに終えられそうではあるが、神経を使う作業なので、無意識のうちにPCの画面を冷たく睨みつけるようになってしまっている。

 ただ、不機嫌の理由はそれだけではなかった。

 昨日の夜のことだ。
 今晩はいつもより仕事が終わる時間が遅くなることを、毎週当然のように金曜の夜から一緒に過ごしている高梨に連絡した。

 普段なら短いメッセージで済ませるものを、なぜか無性に声が聞きたくなって、わざわざ電話をかけてしまった。

 ――そうしたら。

 電話の向こうで、彼女の名前を呼ぶ別の男の声が聞こえた。

『……澪!』

 その声の主は、元彼だったという。

(…………なるほどね)

 やけに『自分のもの感』が染みついたような、呼び慣れているような。
 俺の神経を逆撫でする、ひどく耳障りの悪い響きだった。

『私はもう話すことない』って、うんざりした顔で言っていたくせに。

『最後に少し話しただけ』とは言っていたが、一体何を話したっていうんだろう。

 苛立ちから、自分でも気づかないうちに殺気が出ているらしい。
 さっきから、話しかけてくる職場の人間がみんな、不自然なほどビクついている。

「……あのっ、芦田さん……ここの仕様の件なんですけど……」

「……はい」
「あっ……す、すいません、後でも大丈夫ですっ」

 自分では普通に答えているつもりなのに、他部署の人が完全に怯えて逃げていった。

 ◇

「フーッ……」

 昼休憩、誰もいない喫煙室。
 肺に吸い込んだ紫煙とともに、重くて長いため息を吐き出した。

『最後』のつもりで会ったけれど、直接顔を見たらほだされて、やっぱり許したとか。
 あるいは。
 元彼とのモヤモヤが完全に吹っ切れて、前を向いていけそうだから、これを機に『俺との曖昧な関係』も綺麗に清算するとか。

 煙を見つめていると、無駄に、俺にとって都合の悪いケースばかりが次々と頭に浮かんでくる。

 今すぐ顔が見たい。
 けれど、もし終わりを告げられるのだとしたら、顔なんて見たくない。

(……会いたいのに、会いたくない)

 こんな最悪な気分の金曜日は、初めてだった。

 俺は火の弱くなった煙草を、灰皿に乱暴に押し付けて揉み消した。