藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜

そして迎えたクリスマスイブ。
俺は朝、くるみを社宅まで車で迎えに行った。

「あらあら、遥斗さん。メリークリスマス」
「メ、メリークリスマス」

エントランスを掃き掃除していたムーンライトおばちゃんが、俺を見て嬉しそうに笑う。

いや、おばちゃん。
ほんとに掃き掃除してる?
ほうきだけ持って、ちり取りは?

(もしや、クリスマス妄想ドラマの為にここにいるとか?)

頬に手を当ててうっとりしているのは、その証拠だろう。

俺は愛想笑いを浮かべつつ、そそくさとくるみの部屋に向かった。

チャイムを押すと、すぐに玄関のドアが開く。

「遥斗さん、おはようございます」
「おはよう、くるみ。可愛いな」
「えっ、ありがとうございます」

くるみは真っ白なニットに水色のスカートを合わせ、髪型は毛先をふわりと巻いたローポニーテール。

メイクもピンクで淡く優しい雰囲気だった。

「もう出られる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ行こうか」

コートとブーツを履いたくるみが玄関に鍵をかけると、俺はさり気なく手を繋いで歩き出す。

エレベーターで1階に下りると、ムーンライトおばちゃんはまだ見た目だけ掃き掃除をしていた。

「んまあ、可愛らしい。胸キュン!」

くるみは頬を赤く染めて、パッと俺の手を離す。

「お、おはようございます」

ほうき持った手で頬を押さえているおばちゃんに、くるみが恥ずかしそうに挨拶した。

「おはよう、片瀬さん。メリークリスマス! すてきなデートをね。今夜は外泊かしら?」

いや、おばちゃん。
妄想だけならいいけど、口に出すのはやめて。

「いえ、あの。帰ってきます」

いや、くるみ!
俺は帰すつもりはないぞ?

とにかくここで立ち止まってはいけない。

俺はにこやかにムーンライトおばちゃんに会釈をすると、くるみの手を引いて車に向かった。