婚約者の浮気が発覚したので、街の中心で「誰か私を貰って!」と叫んだら大物が釣れました

「ツェスカ!」

 屋敷の扉が勢いよく開かれたと思えば、()婚約者であるオズワルドが飛び込んできた。

「騒がしい。訪問の連絡もなしに何?そこまで落ちぶれたの?」
「ッ!ご、ごめん……!でも、こんなの黙ってはいられないだろ!」

 そろそろ来る頃だと思って構えてはいた。……というのも、リオネルの()()()で無事婚約は破棄されることになったからな。

「俺は納得していない!」
「貴方が納得しようがしまいが、決まった事でしょ?」
「あの子は遊びだったんだ!俺には君だけなんだよ!」

 テオドラの調査であの女の正体が分かった。まさかの令嬢でもない、ただのパン屋の娘だと聞かされた時には開いた口が塞がらなかった。経緯としては、オズワルドの屋敷にパンを届けに行くうちに親密な仲になったと言う、なんともありきたりな理由。

 そして、コイツが必死になっているのも、平民に手を出して伯爵家を逃した愚か者だと、家を追い出されそうになっているから。何とか私から許しを貰い元鞘に収まりたいって言う自分勝手な考えが見え見え。
 別に追い出されたって、彼女の元へ行って二人で睦まじく愛を育めばいいだけの事。平民だろうと雨風しのげるだけの家屋があるだけいいだろうに。

「頼むよ……俺たち上手くやっていたじゃないか」
「は、それを粉塵のように砕いたのは誰?今更、貴方に愛情や興味は露ほども存在しないわ」
「ッ!」

 鼻で笑いながら言い放つと、オズワルドは悔しそうに顔を顰めながら言葉を飲み込んだ。

「賑やかな声が聞こえると思えば……」

 落ち着いた声が聞こえた瞬間、目の前にいたはずのオズワルドの姿が視界から消えた。

(え?)

 一瞬困惑したが、オズワルドは屋敷の外に放り投げ出されただけで「痛ッ!」と声を上げながら地面に転がっていた。

「まったく、油断も隙もない」
「…殿下…」

 私の肩を抱き寄せながら呟くリオネルの顔を見上げながら見つめた。

「大丈夫ですか?」

 ゴミを片付けた優越感からか、物凄く得意げに聞き返してくる。
 当然だが、この人もアポなし。まあ、今回ばかりは目を瞑ってやる。

「……あんたの仕業か!」

 オズワルドは、自分を投げたのがリオネルだと気付くと、敵意を露わにしてくる。

「人聞きの悪い。駄々を捏ねていたのはそちらの方でしょう?私は、彼女の為にお父上とお話をしただけ。お父上は申し訳なさそうに何度も頭を下げていましたよ?」

 子爵からしたら、伯爵家だけではなく王家まで敵に回すのは避けたいもんなぁ。そりゃ、頭ぐらい全力で下げるだろ。

「それがお節介だって言ってるんです!俺はツェスカとの婚約破棄を認めていない!」

 リオネルを前にしても、ピクリとも折れない強気な態度は称賛できる。……まあ、ここで折れたら転落人生が待っているからね。何が何でもしがみついていたんでしょう。

「まだ分かっていないようですね……貴方に口を出す権利なんて鼻っからないんですよ」

 ゾッとするほど冷たい眼光でオズワルドを黙らせるが、怯えた表情を見せたのは一瞬だけ。

 すぐに「は、ははっ……」と不気味な笑みを浮かべた。

「女癖の悪い王子に言われても、説得力がないんですよ!どうせ、ツェスカに肩入れいてるのも気まぐれだろ!?一晩寝たら捨てられるのが目に見えてる!」

 同感過ぎて擁護する余地がない。

「そいつに比べたら、一度の過ちなんて無かったようなものだろ!?なぁ!?」

 何どさくさに紛れて無かったことにしようとしてんだ?無かったことになる訳ないだろうが。

「……私が言うのも何ですが、彼も大概のクズですね」
「私は、貴方にクズだと言う自覚があったことに驚きです」

 ボソボソとリオネルと小声で話していると「ツェスカ!」と名を呼ばれた。

「君を一番に想ってるのは俺しかいない!だから──!」

 手を伸ばし、私の腕を掴もうとしてくる。思わず体が後退するが、それでもオズワルドは執拗に手を伸ばしてくる。

「その汚い手を退けなさい」

 重々しく怒気を込めた声に、私もオズワルドも動きを止めた。

「随分と好き勝手言ってくれましたが、それは私に対する侮辱と受け取って宜しいんですね?」
「いや、あの……」

 冷静に問い詰められ、一気に熱の冷めたオズワルドはようやく我に返り、しどろもどろになっている。

「口は災いの元……今後は、ご自身で責任が持てる範囲で言葉を吐くことをオススメしますよ?」

 そう言って締めくくると、オズワルドは悔しさなのか恥ずかしさからなのか、軽く舌打ちすると、こちらを振り返りもせず屋敷を出ていってしまった。

「あれは、まだ諦めてませんね」

 オズワルドが出て行った方向を眺めながらリオネルが呟いた。

「貴女に執着していると言うよりは、意地になっているようですしね」
「……はぁ~……」

 頭が痛くなってくる。本当、いい加減にしてくれ。

「ん~…このまま屋敷(ここ)にいるのは危険な気もしますね」
「……」

 全てを失った彼もまた、怖いものがないという状況なんだろう。そういう人間は自暴自棄になり、何をするか分からない。

 険しい顔で黙っていると、パシッと手を取られた。

「そういう訳なので、行きましょうか?」
「は?」