ガヤガヤと賑わう会場。──の壁に背をもたれながら眺める先には、ギラついた目付きの女性陣に囲まれるリオネル。
(……護衛とは?)
グイッと酒を呷りながら眉を顰めた。
まあ、今回リオネルは参加者じゃないからと距離を取ろうとしたところで、周りは簡単に納得しない。
折角のチャンスを逃すまいとする気迫を感じる。
今回の夜会は人数集めの為か、身分の低い者も多く呼ばれている。ここで顔を知って貰わなきゃ、二度目はないと奮起するのも分かる。
意味もなくベタベタとリオネルの身体に触れたり、女の武器である胸を惜しみ無くリオネルの腕に擦り寄せてみたりと、傍から見れば見るほどみっともない。
何が腹立つって、満更じゃ無さそうなリオネルの態度が一番腹が立つ。
(鼻の下まで伸ばしちゃって、だらしない)
あの人が女好きってのを忘れた訳じゃない。あれが通常運転なのも……でも、ムカムカが止まらない。自分でも分からない感情に戸惑い、困惑してしまう。
「ツェスカ。ちょっとだけ話せる?」
「…なに?」
苛立っている所に、また苛立つ奴がやって来たかと顔を顰めてオズワルドを睨みつけた。
「ここじゃちょっと……少しの時間でいい。頼む」
分かり易く懇願してくる。
明らかに何か仕掛けてこようとしているのが分かっているのに、わざわざ二人きりになんてなるはずないだろうに。
「君には絶対に触れない。約束する」
当然ながらそんな言葉、信用できるはずない。でも、今の私は、オズワルド以上にリオネルに腹が立っていた。
絶対護るなんて言っておいて、対象者が側に来ても自分は令嬢達と会話を楽しんでる。
(……むかつく)
そっちがその気なら、こっちだって勝手にさせてもらう。
「分かりました。行きましょう」
「ッ!ありがとう!」
オズワルドに手を引かれ会場を出る時、チラッとリオネルに目をやったが、私が離れたのすら気付いていない様子に、苛立ちが胸に食い込むように痛んだ。
***
連れられてやって来たのは、オズワルドの自室。
勝手知ったるなんとやらで、部屋の中心に置いてあったソファーに腰かけた。
「何か飲むかい?」
「いえ、遠慮しておきます」
ワイングラスを手に訊ねられたが、今しがたまで結構な量を飲んでいたので断った。
「はは、そうだよな。……警戒して当然だ」
オズワルドは傷付いた表情を浮かべた。
別にそんなつもりで断った訳じゃないが、そう捉えるのは全ては己の行いのせい。被害妄想も甚だしい。
「で?話とはなんです?端的にお願いします」
「ああ……」
オズワルドが座るのを見計らって声をかけた。
ここまで付いてきてなんだけど、酒の入った男女が密室で二人きりというのは、万が一に間違いが起こっても仕方ない状況だ。
リオネルに腹立っていたから、なんて言い訳にならない。
「……本当に殿下と婚約するのか?」
顔を俯かせながら聞き逃しそうなほど小さな声で訊ねてくる。
「俺が言うのもなんだけど、ツェスカは殿下に騙されてる!」
「は?」
「今だって、護衛だと言ってツェスカを蔑ろにして他所の女を侍らかしてるじゃないか!」
まったくもってその通り。弁明の余地もない。
「いい加減目を覚ませよ!ツェスカを護れるのも、喜ばせれるのも俺しかいないんだよ!」
身を乗り出し、肩を力強く掴まれた挙句、怒鳴りつけながら言われた。
「他の女に手を出したのは俺が悪かったよ……これから一生償っていく。だから、頼む!俺と一緒になってくれ!」
肩を掴んでいる手に力が籠められ痛い程だが、私は表情を崩さず「で?」と一言で返した。
「……え?」
鳩が豆鉄砲を食らったと言う表現が一番見合う。
「いや、貴方が悪いのは当然の事でしょ?それで?だからなんなのって話でしょ。なんで自分が選ばれる側にいるの?貴方と婚約を破棄した時点で、私の未来に貴方は存在すらしてないの」
一切の感情を捨て、恬淡的に伝えた。
「で、でも!俺の招待を受けて、こうして来てくれたじゃないか!」
少しでも自分の事を思ってくれたのだろうと、往生際悪く食らいついてくる。
「来る気はなかったわよ。……殿下が一緒に付いてきてくれるって言うから来たの」
「ッ!」
なんか、殿下を信用しているから来たみたいな言葉に、言った私の方が恥ずかしくなった。熱くなる顔を見られるのが嫌で、背けるように俯かせた。
すると──
「は、はは……ははははははッ!」
急に壊れたように笑い出したオズワルドに、ギョッと顔をあげた。
「駄目だよ。ツェスカは俺のものだって言ったろ?誰にも渡さない……誰かのものになるくらいなら、壊してしまおうか……そうだ。そうすれば一生俺のものにできる」
ブツブツなにやら言っていたかと思えば、不気味な笑みを浮かべながら私に視線を合わせた。視線をそらさず胸ポケットから漆黒の石が付いたペンダントを取り出した。
「な、なに!?」
すぐに全身が禍々しい靄に包まれ、身動きが取れなくなる。
「俺を選ばなかったツェスカが悪いんだからな。まあ、大切にしてやるから安心して眠れ」
最後に聞こえたのは、オズワルドの高笑いだった……
(……護衛とは?)
グイッと酒を呷りながら眉を顰めた。
まあ、今回リオネルは参加者じゃないからと距離を取ろうとしたところで、周りは簡単に納得しない。
折角のチャンスを逃すまいとする気迫を感じる。
今回の夜会は人数集めの為か、身分の低い者も多く呼ばれている。ここで顔を知って貰わなきゃ、二度目はないと奮起するのも分かる。
意味もなくベタベタとリオネルの身体に触れたり、女の武器である胸を惜しみ無くリオネルの腕に擦り寄せてみたりと、傍から見れば見るほどみっともない。
何が腹立つって、満更じゃ無さそうなリオネルの態度が一番腹が立つ。
(鼻の下まで伸ばしちゃって、だらしない)
あの人が女好きってのを忘れた訳じゃない。あれが通常運転なのも……でも、ムカムカが止まらない。自分でも分からない感情に戸惑い、困惑してしまう。
「ツェスカ。ちょっとだけ話せる?」
「…なに?」
苛立っている所に、また苛立つ奴がやって来たかと顔を顰めてオズワルドを睨みつけた。
「ここじゃちょっと……少しの時間でいい。頼む」
分かり易く懇願してくる。
明らかに何か仕掛けてこようとしているのが分かっているのに、わざわざ二人きりになんてなるはずないだろうに。
「君には絶対に触れない。約束する」
当然ながらそんな言葉、信用できるはずない。でも、今の私は、オズワルド以上にリオネルに腹が立っていた。
絶対護るなんて言っておいて、対象者が側に来ても自分は令嬢達と会話を楽しんでる。
(……むかつく)
そっちがその気なら、こっちだって勝手にさせてもらう。
「分かりました。行きましょう」
「ッ!ありがとう!」
オズワルドに手を引かれ会場を出る時、チラッとリオネルに目をやったが、私が離れたのすら気付いていない様子に、苛立ちが胸に食い込むように痛んだ。
***
連れられてやって来たのは、オズワルドの自室。
勝手知ったるなんとやらで、部屋の中心に置いてあったソファーに腰かけた。
「何か飲むかい?」
「いえ、遠慮しておきます」
ワイングラスを手に訊ねられたが、今しがたまで結構な量を飲んでいたので断った。
「はは、そうだよな。……警戒して当然だ」
オズワルドは傷付いた表情を浮かべた。
別にそんなつもりで断った訳じゃないが、そう捉えるのは全ては己の行いのせい。被害妄想も甚だしい。
「で?話とはなんです?端的にお願いします」
「ああ……」
オズワルドが座るのを見計らって声をかけた。
ここまで付いてきてなんだけど、酒の入った男女が密室で二人きりというのは、万が一に間違いが起こっても仕方ない状況だ。
リオネルに腹立っていたから、なんて言い訳にならない。
「……本当に殿下と婚約するのか?」
顔を俯かせながら聞き逃しそうなほど小さな声で訊ねてくる。
「俺が言うのもなんだけど、ツェスカは殿下に騙されてる!」
「は?」
「今だって、護衛だと言ってツェスカを蔑ろにして他所の女を侍らかしてるじゃないか!」
まったくもってその通り。弁明の余地もない。
「いい加減目を覚ませよ!ツェスカを護れるのも、喜ばせれるのも俺しかいないんだよ!」
身を乗り出し、肩を力強く掴まれた挙句、怒鳴りつけながら言われた。
「他の女に手を出したのは俺が悪かったよ……これから一生償っていく。だから、頼む!俺と一緒になってくれ!」
肩を掴んでいる手に力が籠められ痛い程だが、私は表情を崩さず「で?」と一言で返した。
「……え?」
鳩が豆鉄砲を食らったと言う表現が一番見合う。
「いや、貴方が悪いのは当然の事でしょ?それで?だからなんなのって話でしょ。なんで自分が選ばれる側にいるの?貴方と婚約を破棄した時点で、私の未来に貴方は存在すらしてないの」
一切の感情を捨て、恬淡的に伝えた。
「で、でも!俺の招待を受けて、こうして来てくれたじゃないか!」
少しでも自分の事を思ってくれたのだろうと、往生際悪く食らいついてくる。
「来る気はなかったわよ。……殿下が一緒に付いてきてくれるって言うから来たの」
「ッ!」
なんか、殿下を信用しているから来たみたいな言葉に、言った私の方が恥ずかしくなった。熱くなる顔を見られるのが嫌で、背けるように俯かせた。
すると──
「は、はは……ははははははッ!」
急に壊れたように笑い出したオズワルドに、ギョッと顔をあげた。
「駄目だよ。ツェスカは俺のものだって言ったろ?誰にも渡さない……誰かのものになるくらいなら、壊してしまおうか……そうだ。そうすれば一生俺のものにできる」
ブツブツなにやら言っていたかと思えば、不気味な笑みを浮かべながら私に視線を合わせた。視線をそらさず胸ポケットから漆黒の石が付いたペンダントを取り出した。
「な、なに!?」
すぐに全身が禍々しい靄に包まれ、身動きが取れなくなる。
「俺を選ばなかったツェスカが悪いんだからな。まあ、大切にしてやるから安心して眠れ」
最後に聞こえたのは、オズワルドの高笑いだった……



