ハオランの思惑通り、私とリオネル(偽)の噂が巷で広がっているらしい。
「待ちに待った本命」だと噂する者と「どうせいつもの遊び」だと噂する者が半々と言ったところ。
否定派の殆どが貴族の奴ら。散々遊んでおいて、選んだのが見た目も内面も月並み程度な伯爵令嬢だと知れば、皮肉を混じえたくなるだろうよ。
噂話とは怖いもので、あっという間に広がる。それも、尾びれに背びれが付いて伝わる。
鎮火しようとすればこちらが火傷を負う場合もあるので、下手に手を出すと大変だ。
まぁ、人の噂も七十五日と言われるように、静かに鎮火を待てばいい。
──だが、時には飛び火した火の粉が飛んでくる。
それが、目の前にある一枚の招待状。
私の好きな花束と共に届けられたそれは、オズワルドからの夜会の招待状。
勘当秒読みとなり、いよいよ焦りが本格化してきた模様。文章からも切迫しているのが読み取れる。
「さて、どうしたものか」
正直、行きたくは無い。
断ることも出来るが、果たして簡単に受け入れてくれるか……
「伺えばいいですよ」
いつの間にか扉の前に立っていたリオネルが、私の独り言に応えるように言ってきた。
「折角のお誘いです。断るのは失礼でしょう?それに、彼の最後の晴れ舞台でしょうし」
「……罠だと知った上でですか?」
涼しい顔でこちらへ寄ってきたので、眉を顰めながら聞き返した。
「そのような場所に貴女一人で行かせるわけありませんよ。私が同行いたします」
「は!?」
思わず耳を疑った。
一人じゃなきゃ安心って訳じゃない。そりゃ、噂のあるリオネルと共に出席すれば、信憑性が増してアイツの悔しがる顔を拝めるだろうが、万が一、王太子に何かあったなんて事になったら、目も開けられない。
「いえ、殿下を連れていく訳には…あ、こんな時こそ護衛の役目では!?」
むしろ、こんな状況を作った張本人であるハオランを連れていくのが筋ってものじゃないだろうか。
「ハオランなら殿下の姿にもなれるし、護衛も出来て一石二鳥!私もその方が安心ですし!」
意気揚々と言い切ったはいいが、リオネルの表情が見る見る険しくなっていくのが見え「なんて、ね?」と苦し紛れに付け加えておいた。
すると、リオネルは黙ったまま、弾けるような笑顔で詰め寄ってきた。
「ほお?貴女は、僕では頼りないと言いたいんですね?」
「いやぁ~、そんな事……」
別にそんな事は思っていないが、リオネルの威圧に気圧され、目が泳いでしどろもどろになってしまう。こんなの、ど壺にハマっているようなもの。
「なるほど……そう思われているのは心外ですねぇ。こう見えて、腕は達ほうだと自負しておりますが?」
どんどん追いやられ、トンッと背中に壁が当たった。それは、逃げ場がないことを示している。
「それとも?いざとなったら逃げ出すような卑怯者に見えました?」
目が本気じゃん……
逃げ場がないのに更に距離を詰められ、リオネルの体温が伝わってくる。焦りと緊張で汗が止まらない。
「だ、だから!そんな事思ってないって言ってるでしょ!?」
これ以上は耐えられないと、突き放そうとするがビクともしない。
「では、どう思っているんです?」
「それは……」
「教えて?」
溶けそうなほど甘く色気を混じえた声で囁かれたら、もう限界。
堪らず、力一杯にリオネルを突き飛ばした。
「いい加減にしてよ!私はアンタが付き合ってた女とは違うの!色気で押し通せるなんて思ったら大間違いなんだから!」
突き飛ばされたリオネルは、呆然としたまま私を見ていた。
「ネチネチと執拗いのよ。何をそんなに張り合ってんのか知らないけど、そんなに言うんなら勝手にすればいいじゃない」
気恥しさを隠すように言っているが、半ばヤケクソ。なにせ男性の抗体がないので、強気な態度で自我を保っていないと心臓がもたない。
それでも、赤く染った顔は隠せず「クスッ」と漏れる声が聞こえた。
「ならば勝手にさせて頂きましょうか。言質は取ったので今更『なし』はダメですよ?」
「……分かってるわよ」
ニヤッと含みのある笑みに、やっちまった感が否めないが、もう後には引けない。
「──しかし、このまま私が役たたずだと思われているのは癪なので、貴女をしっかりと護衛が出来たら褒美を頂きましょうか」
「褒美?」
「ええ」
凄く嫌な予感がする。これは、頷いちゃ駄目だと本能が警告してる。
「申し訳ありませんが、貴方に払えるような対価を私は持ち合わせておりません。私の発言が不快に思われたのなら、謝罪させていただきます」
大人しく自分の非を認めて、この話はなかったことにするのが最善の対応。
「おや、随分汐らしいですね。先程までの勢いはどうしました?」
「……」
「ふふ、そう怖い顔せずとも、取って喰おうなどとは思っておりませんよ」
まったくもって説得力がない。
「なに、簡単な事ですよ。貴女の一日を私にください」
「は?」
「待ちに待った本命」だと噂する者と「どうせいつもの遊び」だと噂する者が半々と言ったところ。
否定派の殆どが貴族の奴ら。散々遊んでおいて、選んだのが見た目も内面も月並み程度な伯爵令嬢だと知れば、皮肉を混じえたくなるだろうよ。
噂話とは怖いもので、あっという間に広がる。それも、尾びれに背びれが付いて伝わる。
鎮火しようとすればこちらが火傷を負う場合もあるので、下手に手を出すと大変だ。
まぁ、人の噂も七十五日と言われるように、静かに鎮火を待てばいい。
──だが、時には飛び火した火の粉が飛んでくる。
それが、目の前にある一枚の招待状。
私の好きな花束と共に届けられたそれは、オズワルドからの夜会の招待状。
勘当秒読みとなり、いよいよ焦りが本格化してきた模様。文章からも切迫しているのが読み取れる。
「さて、どうしたものか」
正直、行きたくは無い。
断ることも出来るが、果たして簡単に受け入れてくれるか……
「伺えばいいですよ」
いつの間にか扉の前に立っていたリオネルが、私の独り言に応えるように言ってきた。
「折角のお誘いです。断るのは失礼でしょう?それに、彼の最後の晴れ舞台でしょうし」
「……罠だと知った上でですか?」
涼しい顔でこちらへ寄ってきたので、眉を顰めながら聞き返した。
「そのような場所に貴女一人で行かせるわけありませんよ。私が同行いたします」
「は!?」
思わず耳を疑った。
一人じゃなきゃ安心って訳じゃない。そりゃ、噂のあるリオネルと共に出席すれば、信憑性が増してアイツの悔しがる顔を拝めるだろうが、万が一、王太子に何かあったなんて事になったら、目も開けられない。
「いえ、殿下を連れていく訳には…あ、こんな時こそ護衛の役目では!?」
むしろ、こんな状況を作った張本人であるハオランを連れていくのが筋ってものじゃないだろうか。
「ハオランなら殿下の姿にもなれるし、護衛も出来て一石二鳥!私もその方が安心ですし!」
意気揚々と言い切ったはいいが、リオネルの表情が見る見る険しくなっていくのが見え「なんて、ね?」と苦し紛れに付け加えておいた。
すると、リオネルは黙ったまま、弾けるような笑顔で詰め寄ってきた。
「ほお?貴女は、僕では頼りないと言いたいんですね?」
「いやぁ~、そんな事……」
別にそんな事は思っていないが、リオネルの威圧に気圧され、目が泳いでしどろもどろになってしまう。こんなの、ど壺にハマっているようなもの。
「なるほど……そう思われているのは心外ですねぇ。こう見えて、腕は達ほうだと自負しておりますが?」
どんどん追いやられ、トンッと背中に壁が当たった。それは、逃げ場がないことを示している。
「それとも?いざとなったら逃げ出すような卑怯者に見えました?」
目が本気じゃん……
逃げ場がないのに更に距離を詰められ、リオネルの体温が伝わってくる。焦りと緊張で汗が止まらない。
「だ、だから!そんな事思ってないって言ってるでしょ!?」
これ以上は耐えられないと、突き放そうとするがビクともしない。
「では、どう思っているんです?」
「それは……」
「教えて?」
溶けそうなほど甘く色気を混じえた声で囁かれたら、もう限界。
堪らず、力一杯にリオネルを突き飛ばした。
「いい加減にしてよ!私はアンタが付き合ってた女とは違うの!色気で押し通せるなんて思ったら大間違いなんだから!」
突き飛ばされたリオネルは、呆然としたまま私を見ていた。
「ネチネチと執拗いのよ。何をそんなに張り合ってんのか知らないけど、そんなに言うんなら勝手にすればいいじゃない」
気恥しさを隠すように言っているが、半ばヤケクソ。なにせ男性の抗体がないので、強気な態度で自我を保っていないと心臓がもたない。
それでも、赤く染った顔は隠せず「クスッ」と漏れる声が聞こえた。
「ならば勝手にさせて頂きましょうか。言質は取ったので今更『なし』はダメですよ?」
「……分かってるわよ」
ニヤッと含みのある笑みに、やっちまった感が否めないが、もう後には引けない。
「──しかし、このまま私が役たたずだと思われているのは癪なので、貴女をしっかりと護衛が出来たら褒美を頂きましょうか」
「褒美?」
「ええ」
凄く嫌な予感がする。これは、頷いちゃ駄目だと本能が警告してる。
「申し訳ありませんが、貴方に払えるような対価を私は持ち合わせておりません。私の発言が不快に思われたのなら、謝罪させていただきます」
大人しく自分の非を認めて、この話はなかったことにするのが最善の対応。
「おや、随分汐らしいですね。先程までの勢いはどうしました?」
「……」
「ふふ、そう怖い顔せずとも、取って喰おうなどとは思っておりませんよ」
まったくもって説得力がない。
「なに、簡単な事ですよ。貴女の一日を私にください」
「は?」



