「しろしろはノーネームの太陽だね」
「オレ、太陽なの?やったぁ!」
しろしろが自分の分の飲み物をブンブンと振りながら嬉しそうにしている。
…炭酸飲料っぽいけど大丈夫かな。
「それで、結局どうするんだい?」
紫君が受け取った緑茶を一口飲んで言った。
私は両手を腰にあてて胸を張った。
「私が話すよ、転校生君と」
「ダメだ。一番危ないだろ」
黒ちゃんがピシャリと言い放つ。
それにちゃー君と紫君、きぃ君が片手を上げる。
「ボクもリーダーが行くのは賛成できないかなー」
「そうだね、相手がどう動くか分からない。行くなら男の俺か、茶々原君がいいだろう」
「俺も…姐さんの出番はまだ、ここじゃないかなって…一応女の子でリーダーですし」
むむっ…六人中、四人が反対とは。
そんなに私は頼りないかな。
…いや、本当は分かってる。
皆、心配してくれてるんだよね。
私が女だから。
相手が男だから。
いざって時、リスクが高いから。
それに、確かに紫君達の方が落ち着いて冷静に話し合えるだろう。
じゃあ、どうしようかな…紫君か、ちゃー君か。
そう考えた時、しろしろが沈黙を破った。
「オレは…ムメイがいいと思う!」
その言葉に、私は目を見開く。
黒ちゃんが「…真白、本気か?」と目を瞬かせた。
「うん!ムメイなら大丈夫だよ!」
「そこまで言い切れる…という事は、何か理由があるのかな?教えてくれるかい?」
紫君が優しく問いかける。
しろしろは頷いて私を見つめた。
「ムメイの言葉は、行動はいつも真っ直ぐだから!この中の誰より、思いが伝わると思う!」
「…言葉と行動が真っ直ぐだから…思いが伝わる…?」
「レイもユーセイも、イクトも子分も!だからムメイについてきたんでしょ?オレもそう!だから信じる!大事な事だからこそ、ムメイに任せる!」
しろしろの思いに、私は小さく笑う。
しろしろは“危険だから行かせない”選択肢じゃなくて“大事な事だから信じて任せる”選択肢を選んでくれるんだね。
私が女だから、危険から遠ざけるんじゃない。
リーダーとして君は頼ってくれてるんだね。
心がふっと軽くなった気がする。
「皆、やっぱり私が話しに行くよ…任せて?」
黒ちゃんが頭を抱えた。
「…どうせもう何言っても聞かないんだろ?」
「“任せて”なんて言われたら、もう任せるしかなくなーい?」
ちゃー君がイチゴミルクをちびちびと飲みながら諦めたように目を閉じた。
紫君が観念したように両手を上げた。
「あはは、ズルいなぁ…ここで止めたらリーダーを信じてないみたいになっちゃうよね…俺も賛成するよ」
「お、俺も!姐さんを信じます!…ちょっと不安だけど」
きぃ君の付け足した言葉に皆が笑う。
「じゃあ、決まった所で情報共有しとこうか?ちゃー君、画像のプリントアウトできてる?」
「持ってるよー、これが“雇い主”…例の転校生君の顔だよ」
ちゃー君がカバンから取り出した一枚の紙。
そこにある転校生を全員が覗きこんだ。
「調べたけど名前は朱堂 進…リーダーと同じクラスの転校生で、実家は裕福…学校生活は普通に過ごしてる」
「よくそこまで調べたな」
「黒石君ってばボクをナメすぎー、このくらい余裕だよ」
「なんか悪いやつに見えないね!」
「名前覚えらんないからシュシュ君って呼ぼう」
「これぐらい覚えて下さいよ姐さん!」
それぞれが違う反応を見せる中、一人だけ…紙の中のシュシュ君を見て硬直する人がいた。
「…紫君?どったの?」
私の言葉に、他の皆も紫君へ視線を向ける。
紫君は何も言わず、悲しげな瞳をしていた。
ふと、彼の指先がシュシュ君の姿をなぞる…まるで何かを思い出すように。
「…もしかして、知り合いなのか?」
黒ちゃんの発した言葉に、ようやく紫君が視線を上げた。
どこか影を感じる雰囲気をまとって、彼の唇が動く。
「…少し、ね…でもこんな事をする子じゃ…」
そう言いかけて、言葉を止める紫君。
小さく拳を握っていた。
「朱堂と何かあったなら、話してくれ紫神」
黒ちゃんが言った。
紫君は首を振る。
「いや、何でもないよ…それで、どうする?リーダーが彼と話す間、俺達はどこで待機しようか」
話を変えたな、というのはその場にいた全員が気づいていたと思う。
何か言えない…言いにくい事情があるのかな?
全員で目配せして、深く追及はしない事にした。
「一階に空き教室があるでしょ?そこでボクらは盗聴器で会話を聞く。リーダーに何かあったらすぐに向かえるようにしとかないとねー」
「それじゃ私は、屋上でシュシュ君とゆっくり会話しようかなぁ」
慣れている場所の方が落ち着くし。
手紙か何かで呼び出しておけば、後は向こうからやってくるでしょう。
「決行は明日にしよう。手短に終わらせる」
黒ちゃんの意見に全員が賛成して、その日はそのまま解散した。
帰り際、私は紫君を呼び止める。
「おや、どうかしたかい?リーダー」
「んー…さっきの紫君、様子がおかしかったからさぁ。何か抱えてる事とかあるなら___」
その先の言葉は言えなかった。
紫君の人差し指が、私の唇に置かれたからだ。
彼の、冷たい指先の温度が伝わる。
紫君は微笑を浮かべて私へ顔を近づける。
「ねえ、リーダー。俺は君達の…仲間かな?」
私はコクリと頭を上下させる。
紫君は嬉しそうに微笑んだ。
「そっか…ありがとう」
私の唇から、骨張った指が離れていく。
紫君はそれ以上何も言わず、クルリと背を向けて去って行く。
その後ろ姿が少し寂しそうで、私はしばらくその場を動けずにいた。



