夢明-NO Name-


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最初の印象は“優しい子”。

だからこそ、私は彼から目が離せなかった。

一年生になって初めての梅雨を迎えた日の事だ。

ザアザアと雨が降る蒸し暑い昼休み。

購買帰りに廊下を歩いていると、角の向こうから走ってきた誰かとぶつかって倒れそうになった。

大量の何かが床に落ちる音がする。

その時、私の手を「危ない!」って引っ張ってくれたのがしろしろ。

少し癖っ毛の白い髪の毛の男の子。


「ごめんね!大丈夫!?」


しろしろはそう言って、体勢を整えた私から手を離した。


「大丈夫だよ。…おー、君って力が強いんだねぇ」


僅かな痛み。

手首をさすりながら私は呟く。

咄嗟の事で強く掴まれたのか、私の手首は赤くなっていて…しろしろはそれを見てシュンと落ちこんでいた。


「あー!またやっちゃった…!ごめん!オレ、人より力が強いんだ…!」


「んーん、いいんだよ…それより散らばってるコレ、一緒に拾いましょうぜ?」


私は足元に転がる大量の缶を指差した。

しろしろが持っていたんだろう、飲み物の缶。

それが辺りに散らばってしまっていた。

私を引っ張るために手を離した結果だろう。


「わ!そうだった!」


しろしろはハッとした様子で缶を広い始める。

私もそれを手伝い、しろしろの両手に缶を集めた。


「手伝ってくれてありがとう!キミ、優しいね!」


「それ程でも。…この飲み物、全部君の?」


「ううん、頼まれたんだ!皆、ノド渇いたって言ってた!オレ、力持ちだから皆の分の飲み物買いに行ってくれって!任されたから頑張るんだ!」


「…へぇ」


誰か手伝ってあげればいいのに。

まぁ、友達同士ならそういう事もあるのか。

そう思って、その時は何も言わなかった。


「運ぶならさ、この袋使いなよ。楽だよ」


そう言って持っていた袋の中身を取り出して、袋だけをしろしろにあげた。

しろしろはパァッと顔をほころばせる。


「いいの!?優しい人、ありがとう!」


「夢明だよー、一年一組の灰川 夢明…君は?」


「オレ、叫!真白 叫って言うんだ!夢明、何か困った事があったらオレに言ってね!袋くれたお礼したいから!」


そう言ってしろしろは袋に缶を詰めて、手を振りながら嵐のように去って行った。

彼と再び出会ったのは、それから数日後。

雨が降りそうで降りきらない、気圧の重い日だった。


「夢明、いた!」


頭痛がしている中、一人でフラフラと校舎裏を散歩している時。

上空から声がして、上を見上げた。

校舎の三階から大きく手を降るしろしろの姿。

私が手を振り返すと、その体が窓から勢いよく飛び出した。

まるでオウムが空に羽ばたくような豪快な仕草に驚く。


「えっ___」


ダンッと強い音を鳴らし、しろしろが地面に着地する。

三階から飛び降りるなんて…両足は死んでないだろうか。

心配する私をよそに、しろしろが私に近づいた。


「夢明!大丈夫!?」


「ん?大丈夫って、何がかな?」


「顔色、悪いよ!気分悪い?」


すぐに気圧が重いせいだろうと気づいた。


「あぁ、私、今日ちょっと重くて」


そう言うと、突然しろしろの手が伸びてきて、私は横抱きにされる。

いわゆる“お姫様抱っこ”の状態になり硬直していると、しろしろが真面目な顔で呟く。


「うーん?夢明、重くないよ!軽すぎ!飛んで行っちゃいそう!」


「えっ…あ、いやさっきのは体重が重いってワケじゃなくてね?」


気圧の事だと説明し、ついでに頭が痛い事を伝える。


「そうなの!?じゃあ保健室に行かなきゃ!捕まってて!」


それから急いでしろしろは保健室へと走ってくれた。

力強くてガッシリとした男の子の体。

その腕の中で私はギュッと彼にしがみついた。


「先生!夢明が頭痛いって!治してあげて!」


「え?あらあら…、じゃあ、そこのベッドを使って休んでてね」


薬品の清潔な匂い。

保健室の先生に促されベッドに寝る私を、しろしろは心配そうに見守っていた。


「夢明、よくなる?」


「大丈夫だよ~、もうだいぶ元気」


そう言うとしろしろが笑う。


「よかった!友達が元気だと嬉しい!」


混じりっけない純粋な笑顔。

それを見て私は先日の事を思い出した。


「この前の飲み物、友達は喜んでくれてた?」


「うん!落とした時に何個か缶がヘコんでたんだけど、“鈍臭いな”って皆が笑ってくれたんだ!“次は上手にやれよ”って、また任せてくれた!」


「…それは___」


馬鹿にされて、良いように利用されてるだけだよ…そう言いかけてグッとこらえた。

代わりに、こんな事を聞いてみる。


「しろしろは、この学校の人達の事、好き?」


「うん!大好き!」


心からそう思っているんだろう。

私はベッドから上体を起こし、しろしろの手を握った。


「ねえ、しろしろ」


「ん?“しろしろ”ってオレの事?」


「うん。私ね、この学校の生徒達を悪い人達から守りたいんだ。それで今、メンバー集めしてるんだけど…しろしろも一緒にやらない?」


強くて優しくて、ムードメーカーで。

しろしろだったから私は迷わず勧誘できた。

しろしろは悩む素振りも、考える素振りすら見せずに笑顔を浮かべる。


「やるよ!オレも皆を守りたい!それに、それを手伝ったら夢明にこの前のお礼ができるもんね!」


そう言って底抜けに純粋で、優しいしろしろが仲間になった。

あの時の彼の笑顔は太陽みたいに明るくて、それを今でも覚えてる。


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