「茶々原さん、子供の頃から何でも出来たなんて…やっぱハイスペックだったんですね」
ちゃー君の昔話を聞いたきぃ君の、第一声はそれだった。
「そー?ボク的には褒められる事が重要だったし…結果はオマケみたいな物だよ」
「カッコいいです!」
「出会った頃のちゃー君、段ボールの中に捨てられた豆柴みたいだったんだよ。よくここまで立派な甘えん坊さんに育ちましたなぁ」
「…豆柴って段ボールで捨てられる事あるんですか?」
しみじみと昔のちゃー君を思い出していると、部屋に鳴り響いていたキーボードの音が止まった。
終わったのかな?
ちゃー君が椅子をくるりと回転させて、こちらへ体を向けた。
「ねえ、リーダー」
とろんとした瞳でちゃー君が私を見つめる。
「ボク、頑張って調査してるよね、今」
「うん、頑張ってくれてますなぁ」
素直に頷くと、ちゃー君が椅子から立ち上がり、私の横にちょこんと座った。
ちゃー君の匂いがする、ベッドの上。
置いていた私の手の上に、ちゃー君の手が重なった。
私のより少し大きな、男の子の手。
ちゃー君はそっと顔を近づけて、耳元で囁いた。
「調査、あと少しで終わるからさ。先にご褒美もらってもいーい?」
「ご褒美?いつもみたいに頭なでなでする?」
「んー、それもいいけど…ぎゅーってしてほしい」
私はチラリときぃ君を見る。
「オ…オレは何も見てません!」
彼は真っ赤な顔で私達に背中を向けて座り直した。
両手で耳までおおっている。
ただぎゅーってするだけなんですが?
「…だめ?」
こてん、と首を傾げるちゃー君が可愛くて、私は彼の体を優しく抱きしめた。
一人で頑張ってくれてるから、オマケで頭も撫でてあげちゃう。
ちゃー君はゆっくりとした動きで私を抱きしめ返した。
「…リーダーって中々に無防備だよね。ボク心配」
「ん?無防備って、私が?」
「そうだよ…男の部屋に来てベッドに座っちゃうのも、そこで男の腕の中に自分から入ってきちゃうのも危険なの。ボク以外とはダメだからね?」
「んー?ちゃー君は危険じゃないでしょ?」
私の言葉に、ちゃー君が深いため息を吐くのが分かった。
「ボクも男だから、約束できないかなー」
触れていた体温が離れていく。
よく分かんなかったけど、気が済んだのかちゃー君は再び椅子へと戻っていった
カタカタとキーボードの音が鳴る。
それから数分もしないうちに「終わったよー」とちゃー君の声が聞こえた。
まだ耳を塞いでいたきぃ君の肩を叩いて知らせ、三人でパソコンの画面を見る。
そこには鮮明な画像。
映るのは二人の男の子。
その片方は先日ナイフで襲ってきた男の子だった。
手元を見るに、お金を受け取っている場面らしい。
「この周辺の監視カメラここだけだし、ハッキングするのには時間かかったけど…ちょっとおかしいんだよねー」
「おかしい?…オレには普通の画像に見えますけど…」
ちゃー君が画面を指差す。
「ギリギリ画角に収まるように映ってる。少しズレれば監視カメラに映らなかったのに…まるでわざと見つかるためにこの場所を選んだみたい」
「え、わざとって…何でそんな、わざわざオレ達に認知させるような真似を…?」
「さぁ…それよりも厄介なのは___」
ちゃー君が私を見た。
そして映っているもう一人を指で示し、“雇い主”の正体を告げる。
「コイツ、リーダーのクラスの転校生だよ」
***
「…つまりあの男の“雇い主”はうちの学校の生徒で間違いなかったという事か?育人」
「うん、そう…めんどーだよね」
腕を組み、険しい顔をした黒ちゃんの前でちゃー君が棒付きキャンディーを舐めている。
あの後、私達は黒ちゃん達を呼び出し、アジトにしているゲームセンターで合流をした。
重たい空気と正反対に、周囲のゲーム機の軽快な音楽が辺りに流れている。
「それにしてもリーダーのクラスの転校生なのに、茶々原君の方が顔を知っていたなんてね」
紫君がパイプ椅子に座り、足を組んだ。
「リーダーは人の顔覚えるの苦手だからね。その点ボクは全校生徒の顔、記憶してるから」
「えっ、全校生徒の顔を覚えてるんですか…!?」
「うん。守る時とか探す時に必要な情報でしょ?」
「あはは、さすが茶々原君…さてと」
紫君が私達の顔を見渡す。
そして真剣な顔で切り出した。
「“雇い主”の正体はうちの生徒…だけど俺達は生徒を守るのが目的だ。さて…この“雇い主”をこれからどうする。俺達はどう動こうか?」
その言葉に全員の視線が私に集まった。
黒ちゃんが私の名を呼ぶ。
「夢明、お前がリーダーだ。俺達はお前に従う」
「うーん…そうだねぇ…」
私としては争う気はない。
だけど向こうがどう思っているかにもよる。
“雇い主”…いや、あの転校生君は守るべきうちの学校の生徒だ。
だけど同時に、牙を向いてきた“敵”でもある。
…どうするべきかなぁ。
私が答えを出せずにいると、黒ちゃんが口を開いた。
「俺は排除するべきだと思う。そいつは夢明と黄谷に危害を加えるようにと他者に頼んだ“敵”だ。仲間を襲うやつに慈悲はいらない」
「えー、でもさ。それやっちゃうとボクらの目的がブレちゃわない?生徒であるなら守る事が第一条件でしょ」
ちゃー君の言葉に黒ちゃんがピクリと反応した。
「今回は例外中の例外だ。わざわざうちに転校してきた事自体がきな臭い。何か企んでいるのは明白だろう」
「下手に動くとノーネームの評判が下がるよ。ただでさえ間違った情報でボクらを怖がってる生徒もいるんだし…更なる“敵”を作りかねないでしょ」
「なら会話で解決できるとでも?」
「そうは言ってないよね。ただすぐに排除に動くのは違うって話」
ピリピリとした緊張感が辺りを包む。
黒ちゃんとちゃー君。
どちらも言い合いがヒートアップしてきた。
紫君に仲介を求めるけど、「おや、困ったね」と笑うだけで何もしてくれない。
こんな時のための年長者でしょうが。
きぃ君は二人の圧に気圧されてあたふたしているし…どう収拾をつけよう…。
「皆!」
その時、しろしろの声が辺りに響き渡った。
「ちょっと休もう!ジュース買ってきた!飲もう!」
その場の全員が目を丸くしてしろしろを見た。
しろしろの両手には人数分の飲み物が抱えられている。
外の自販機で買ってきてくれたのだろう。
「これ飲んで、落ち着こうよ!オレ、難しい事分かんないけど…大好きな皆がケンカするのは嫌だ!」
そう言いながら一人一人の手にジュースを握らせるしろしろ。
スポドリを受け取った黒ちゃんが頭を掻く。
「…威圧的になって、悪かった」
「…別にー、ボクもだし。…ごめん」
そう呟いてイチゴミルクを飲むちゃー君。
二人の姿を見てしろしろは嬉しそうに笑った。
「しろしろは変わらないなぁ」
あの時も、しろしろは両手いっぱいのたくさんの飲み物を持って配ってあげてたっけ。
受け取ったココアの缶を見つめながら、私は彼と出会った日を思い出す。



