夢明-NO Name-


翌日。

私達はいつものように屋上で昼食を食べ終えた後、それぞれの目的のために立ち上がる。

昨日のささやかな作戦会議の結果、チームを二つに分けて行動する事になった。

真犯人である“雇い主”が本当にうちの生徒なのかを調べる『調査チーム』と、その間学校の生徒達を守る『護衛チーム』。

それぞれ三人ずつ選出した。

私とちゃー君、きぃ君は『調査チーム』で、黒ちゃんと紫君、しろしろが『護衛チーム』だ。


「じゃあ、俺達は見回りに行ってくる」


「リーダー、茶々原君、黄谷君も無理をしないようにね」


「護衛!守る!いってきまーす!」


そう言って屋上を出ていく黒ちゃん達。

残された私は「さてと」とちゃー君を見た。


「私達はこれからどうしようか」


「えっ、まだ決まってないんですか…!?」


きぃ君が“あり得ないコイツ”みたいな目で私を見てくる。

そんな目で私を見てくるのは君くらいだよ。


「今回の調査の行方を左右するのは、私の判断じゃなくてちゃー君の能力次第だからねぇ」


その言葉に反応したちゃー君が、私との距離を詰めてきた。


「あれー?リーダーはボクの腕が信じられないのかな?」


あまり変わらない身長。

少し屈んで、上目遣いになりながらちゃー君が私の顔を覗きこんだ。


「いやいや、信じてるよ?信じてますとも、うん」


吐息すら感じる距離に驚き、一歩後ろへ下がる。

ちゃー君の大きなくりくりとした瞳が、面白い反応と言わんばかりに細められた。


「…まぁいいけどね。これから嫌ってほど信じさせてあげるから」


___ほら、行こう。

そう言ってちゃー君がキュッと私の手を握り、屋上から去ろうとする。

一連の動作に呆気にとられていたきぃ君が、慌てて後ろを追いかけてきた。


「あ、あの…茶々原さん!どこに行くんですか?」


「んー?黙ってついてきなよ。そしたら分かるからさ」


「え…あ、はい…」


屋上を出て、階段を下り、下駄箱で靴を履き替えて。

私達は外に出た。

学校はたぶんサボる事になるだろう。

私の手は、しっかりとちゃー君に繋がれたままだった。

さて…10分ほど歩いただろうか。

商店街のさらに向こう側のエリアに辿り着いた。


「はい、到着っと」


ちゃー君が足を止めたのは、見事な大豪邸の前。

きぃ君があんぐりと口を開けて豪邸を見上げている。


「デカっ…!え、広っ…何ですかここ!誰の家なんですか!?」


「誰のって…ボクの家」


「ええっ!!?」


きぃ君が叫ぶ。

あれ…知らなかったのかな?


「ちゃー君は、茶々原財閥の子供なんだよ。つまり大金持ちのお坊ちゃんなのですね」


「マジっすか!!?」


「三兄弟の末っ子だから相続権はないけどね」


ちゃー君が門に設置されたインターフォンを押す。


「ボクだよー。帰ってきたから開けてー」


その声に応じるかのように、大きな門が開く。

豪邸に続く長い道が目の前に現れた。


「じゃ、行こうか」


さすがこの家の子。

手慣れた様子で先を歩くちゃー君に、私ときぃ君もついていく。

季節の花が植えられた道の先、大きなドアの前に年配のおじいさんが待っていた。

その人は私達を見るなり深々と頭を下げる。


「お帰りなさいませ、育人坊ちゃん」


「ただいま、じいや」


「この世界に実在するんすか、“じいや”って…」


「私も今、同じ事思った」


じいやさんがドアを開けてくれて、家の中に入る。


「こっちだよー」


ちゃー君の案内に従うまま足を進めるけど、辺りに広がる光景につい目を奪われてしまう。

絵画に壺、彫刻、装飾…どれもこれも高そうな物ばかり。

…触ったらダメだよね。


「リーダー、特別に好きなの触っていいよ?…壊したらボクに“対価”を払ってもらうけど」


「うーん、お金持ってないからやめとくね」


「ふふ、対価がお金とは限らないよー?」


どこか楽しそうなちゃー君が、ある扉の前で足を止めた。


「ここがボクの部屋。二人とも入って」


そう言われて足を踏み入れる。

ちゃー君の部屋はいたって普通の部屋だった。


「好きな所に座ってどーぞ」


机の前にある椅子に座りながらちゃー君が告げた。

じゃあ遠慮なく…。

私は一番座り心地の良さそうなフカフカのベッドに腰かけた。

きぃ君は忙しなく辺りを見渡しながら、部屋の中央、絨毯の上に縮こまって座る。


「それじゃ調査を始めるから、二人はゆっくりしてて」


ちゃー君が机の上に置いていたノートパソコンを開きながらカチカチと操作する。


「調査って…茶々原さん一人でするんですか?俺も何かお手伝いしますよ」


「えー、じゃあハッキングできる?商店街とか、学校の周辺全部の監視カメラ」


「え!?ハッキング…監視カメラ!?」


ちゃー君の言葉に驚いて、固まるきぃ君がそこにいた。

私はベッドわきのサイドテーブルに置かれた棒付きキャンディーを一本拝借して口へ運ぶ。


「ちゃー君は得意なんだよね、こういうの。探したり覗いたり、聞いたり…だから調査関連は全部ちゃー君のお仕事なのだよ」


「ボク何でも出来ちゃうんだよねー。だから、適材適所ってやつ?ボクに任せといてよ」


「は…はぁ…よろしくお願いします…」


カタカタ、カチカチ。

キーボードを弾く音が静かな部屋に響く。

画面には数字の羅列、映像などが表示されていて、それを見ればちゃー君が集中してくれているのがよく分かった。

はてさて…“雇い主”の正体は何かな?


「あの…姐さん」


きぃ君が小声で話しかけてくる。


「姐さんと茶々原さんって、どうやって知り合ったんです…?」


「ん?興味あるの?」


「少しだけ…茶々原さんみたいなスゴイ家柄の人と、姐さんみたいな一般人がどう出会ってチーム結成までこぎ着けたのか気になって…」


「やっぱちょいちょい失礼だよね、きぃ君って」


私は口の中のキャンディーを舌で転がしながら思い出す。

ちゃー君と出会った時の話かぁ。

イチゴミルクの甘ったるい味を味わいながら考えていると、背を向けたままちゃー君が声を発した。


「いいよ、ボクが話してあげる」


「ちゃー君、調査の方は大丈夫なの?」


「あらかた終わったし、喋りながらでも平気ー」


そう言いながら手先だけは忙しなく動かして、ちゃー君が語り出す。


「あれは確か、ボクとリーダーが一年生の時だったかなー」