「それから高校に入って黒ちゃん達を仲間にして、あとは生徒を守りつつ頂上からの景色を見るだけなんだよねぇ」
学校の生徒を守るのは、“頂上の景色を見る”というその過程に必要だと思ったから。
皆の笑顔を守った先に、私の見たい景色はあるんだと思う。
昔話を語り終えた私の肩に、ちゃー君がこてんと首をのせた。
「ふーん。それってボクらはリーダーの“信頼”勝ち取れてるって事?…なんか気分いいかも」
ふわふわとした髪質のちゃー君の頭を撫でて上げる。
ちゃー君が気持ちよさそうに目を閉じる。
「リーダー!オレも仲間?信頼できる仲間?」
自身を指差し、首を傾げるしろしろ。
「そんなの当たり前だとも。私はしろしろの事も頼りにしてるよー」
私が笑いながら、今度はしろしろの頭を撫でる。
少しモコモコよりのふわふわ感…ちゃー君とはまた少し違うさわり心地を堪能した。
撫でられた事が嬉しかったのか、彼はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「やったぁ!仲間!ユーセイも子分も!?」
「黒ちゃんも信頼してるよ。きぃ君は…信頼するにはまだちょっと足りないかな」
「あー、子分残念!」
しろしろがションボリした顔できぃ君の肩をポンポン叩く。
きぃ君は「お、俺はこれからっスから!これからの活躍見てて下さいよ!」とやる気を見せていた。
その姿が豆柴に見えて可愛い。
きぃ君は犬っぽいなぁ。
「ちょっとおいで、きぃ君」
私が手招きすると、きぃ君は素直に近くまで来た。
私は彼の頭を撫でる。
少し固めの髪質が私の指にすかれていく度に、サラサラと揺れた。
「…はっ!?ちょ…何ですか姐さん!?」
「んー?頑張れって意味を込めてみた」
「…は…はい、頑張ります…」
何か考えるように顔を背けるきぃ君。
黒ちゃん達からの視線にハッとしたように口を開いた。
「そ…そういえば紫神さんの方はどうでしょうね!あの男、話しましたかね!?」
「紫神君の事だからもう細部まで話聞いてると思うよー」
ちゃー君がググッと背伸びをしながら答える。
「ボクらもそろそろ戻ろうかー、行こう真白君」
「行こう行こう!イクト!」
「あっ、俺も行きますっ!待って下さい!」
ちゃー君としろしろがゲームセンターに戻っていく。
その後ろを慌ただしくきぃ君が追いかけていった。
「私達も行こうか」
イスから立ち上がり、歩き出そうとする私の手を黒ちゃんが優しく掴んだ。
「夢明」
私の名前を呼ぶ黒ちゃんの声はどこか甘い響きを含んでいる。
何も言わずに頭を差し出す黒ちゃんの意図をくんで、私はその黒い髪の毛を撫でた。
「…アイツらだけ撫でられんの、ズルいだろ…」
ポツリと呟いた黒ちゃんの言葉に、小さく笑う。
「黒ちゃんは本当、甘えんぼさんになったよねぇ」
「…うるさい、お前のせいだろ。責任とって甘やかせ」
「はいはい」
サラサラとした髪の毛をよしよししてあげる。
黒ちゃんは頬が緩むのを抑えるように口元をもごもごさせていた。
「…夢明、さっきの話」
「ん?私の過去の事?」
黒ちゃんは僅かに頭を上げて、私へと視線を向けた。
「お前が見たい景色がどんな物かは知らない…けど、俺達が必ずその景色ってやつ、見せてやる」
真っ直ぐな瞳。
その中に潜む覚悟のような物を感じて、私は言葉を返せなかった。
真剣に見つめられて、少し頬が赤くなっていく。
沈黙が流れる。
私の指先だけがぎこちなく彼の髪を撫で続けていた。
「おや、お邪魔だったかい?」
「!!」
聞こえてきた声にバッと私から離れる黒ちゃん。
私はクスクスと笑う声の主の名前を呼んだ。
「あれ紫君、どうしたの?」
「どうしたって…二人が中々来ないから呼びに来たんだよ。そしたら良い雰囲気で…やっぱりもう少し待っていれば良かったかな?」
「…先に行ってる」
気まずそうな黒ちゃんが、足早に去って行く。
その後ろ姿を眺めながら、私も紫君と後を追いかけた。
「あ、やっと揃った」
ゲームセンターの中。
ちゃー君がパイプ椅子の背もたれを前にして座り、私達に向かって手を振った。
その横ではしろしろが、縛られたままの男の子をツンツンと指先でつついて声をかけている。
「おーい、生きてるー?」
男の子は青ざめた顔で目には涙を浮かべてグッタリとしていた。
「…紫神さん、一体何をしたんだろう…」
怯えた様子のきぃ君の言葉に私は紫君を見た。
「相変わらずエグいですなぁ、紫君の精神攻撃」
「あはは、俺は思った事を言い連ねただけだよ」
朗らかに笑みを浮かべる姿が逆に恐ろしい。
身震いするのを感じながら、私は両手で自分の体をさすった。
「それで怜、今回の騒動の発端…何か聞き出せたか?」
黒ちゃんの言葉に紫君が頷く。
「彼は、金をもらって雇われたらしい。彼自身、俺達に私怨もあったようだし、それを利用されたんだろう。ナイフは勝手に用意したらしいけど」
「私怨?」
「うちの生徒を狙ってカツアゲをした時に黒石君、キミにボコボコにされたんだと」
「…覚えてないな。本当に俺か?」
真顔で言い切る黒ちゃんに紫君が苦笑する。
「まぁ仕方ないね、揉め事なんてよくある事だし。…それで…厄介なのは彼じゃなくて、その雇い主なんだ」
「というと?」
紫君はチラリと私へ視線を向けた。
そして眉を八の字にして困ったように口を開く。
「その雇い主…うちの生徒らしいんだよね」
「…は?」
黒ちゃんが呟き、私とちゃー君、きぃ君が目を丸くする。
「ん?どゆこと?」
ただ一人、しろしろだけが頭にハテナマークを浮かべていた。
ちゃー君が気怠そうに説明する。
「敵はうちの生徒。つまり…本来なら守るべき相手。ボクらが手を出せない相手だから面倒ーって事」
「…そうか!それ大変だ!どうしよう!」
「といっても、まだ裏付けが取れていない情報だから、彼の話を信じて鵜呑みにするのも早いと思うけどね」
紫君の言うとおりだ。
制服なんて借りたりすればどうにでもできる。
雇い主はうちの生徒になりすました、別人だったかもしれない。
私は皆を見渡して告げる。
「それじゃあ当面の課題は…その“雇い主”が本当にうちの生徒なのか…それを調べるって方向でよろしくね」
『了解』
「わ、分かりました!」
どう動くべきか話し合う皆を横目に、私は縛られた男の子を見る。
雇い主はうちの生徒なんて…厄介な話を持ってきてくれるじゃん。
私達が学校の生徒から恐れられているのは知っているけど…感謝もされてきた。
こんな事を不良に、お金を渡してまで頼む生徒がうちにいるのかな?
その理由は、何?
「夢明、お前の意見を聞かせてくれ」
「…うん、今行くー」
小さな疑問を胸に、私も会話の中へ混ざっていく。
ゲームセンターの窓の外。
夕焼けの暖かな色に包まれていた。
もうじき夜がやってくる。



