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つまらない世界だった。
「私の名前の由来は、明るい夢を持ってほしいからだとお母さんに聞きました」
何歳の時だっけ。
小学校で出された『自分の名前の由来を調べよう』って宿題。
明るい夢を持ってほしい…だから私は“夢明”。
だけど…私には明るい夢なんて一つもなかった。
「私、大人になったら漫画家さんになるの!」
「ぼくは警察官!」
「ケーキ屋さんがいいなぁ」
「お父さんみたいになりたい!」
クラスメイトの口から出てくる夢のカケラ。
子供なら一つは思い浮かべるようなキラキラとした夢が、私には全くなかった。
私のしたい事って何だろう。
見たい夢は何だろう。
それが分からなかったから、自分の名前が嫌いだった。
明るい夢。
夢明。
夢がない私には、不釣り合いな名前。
だから、次の宿題で『ぼくの私の夢について』なんて物が出た時は困った。
本当にどうしようって思った。
「私、夢がないんです」
そう言うと先生が困ったように笑って言う。
「夢ってね、お仕事だけじゃなくて、叶えたい目標でもいいの」
「叶えたい目標…?」
「そうよ、例えばテストで100点を取りたいとか…どこかに行ってみたいとかでもいいのよ。探してごらん、きっと見つかるからね」
目尻にシワを寄せて笑ってくれた優しい先生の事、今でも覚えてる。
だけど私は小さい頃から、わりと何でも出来る子だった。
テストで100点を取るのも、電車の乗り方もすぐに達成して…行ってみたかった桜の名所に一人で行った事もある。
「全部出来ちゃった」
達成したら“夢”ではなくなる。
一人で桜を見て、お母さんが作ってくれたお弁当を一人で食べて。
帰りの電車が来るまでどう過ごそうかなって考えていた時だった。
「アンタ、一人で花見してんの?カッコいいね」
振り向くと、派手な金髪のお姉さんがいた。
耳にはピアスをつけてて、バッチリお化粧をしてて…制服を着崩しているお姉さん。
「アタシも隣、座ってい?暇してんのよ」
そう言うなり私の返事も聞かずに隣に座る。
「あ、赤いタコさんウィンナー入ってるじゃん、一個ちょうだいよ」
「…うん、いいよ」
「そ?ありがとー。お礼に悩み相談してあげる」
「悩み相談?」
「そうそう。…いただきまーす」
お姉さんは私のお弁当からタコさんウィンナーをつまみ取り、口に放り投げる。
もぐもぐと咀嚼音が聞こえた後、ゴクンと飲みこむ音がした。
「アンタ、浮かない顔してたからさ。何か悩みでもあんのかなーって…あるなら話してみ?答えが見つかるかもよ?」
私は目を丸くしてお姉さんを見た。
何で悩んでるって分かったんだろう。
うん…今思い出しても不思議な人だったな。
自分の名前の事や、夢が見つからない事を話してお姉さんを見る。
「夢ってどうやって見つけるの?」
お姉さんは私の話を聞くと、少し考えてから「んじゃ、いっちょ行きますか~」と腰を上げた。
「行くってどこに?」
私の問いかけに、お姉さんは答える。
「ん~?抗争」
お姉さんは、不良だった。
連れて行かれた先ではもう喧嘩が始まっていて。
私は物陰に隠された。
「ここにいな。護衛をつけるから…都月!こっち来てぇー!」
“つづき”と呼ばれた黒縁眼鏡のお兄さんがこっちに来て、私を見てギョッとする。
「は、子供…?」
「この子、アタシのマブだから。守ってやって」
「…ったく…僕が前線抜けて平気か?」
「余裕ですけど?…ねぇ、アンタ」
お姉さんが私の前にしゃがみこむ。
短いスカートの奥にパンツが見えそうでドキドキした。
「今からアタシが、アンタの夢を作ってあげる」
そう言って私の頭を撫でて、お姉さんが怒声の飛び交う喧嘩場に向かっていく。
周りは全員、男の人だ。
それなのに、お姉さんは一人…また一人と立ちはだかる相手を倒していった。
自分より大きな相手に立ち向かっていくお姉さんが、すごくカッコよくてヒーローみたい。
「…スゴイ…」
思わずもれ出た声に“つづき”お兄さんが眼鏡を拭きながら言う。
「そうだな…全く、蹴り技出すなら下にズボンはけって言ってるのに聞かねぇんだから」
そう呟きながらも、その声色は優しい物だった。
それからあっという間に時間は過ぎて。
立っているのが、つづきお兄さんと同じ制服を着た男の人達だけになり、お姉さんのチームが喧嘩に勝ったんだと理解する。
「ねぇアンタ!そこのお嬢ちゃん!こっちおいで~!」
お姉さんに呼ばれ、興奮が収まらないまま駆け足で飛び出す。
お姉さんはその場に立ち、バッと両手を広げた。
「これが、アタシの“夢”」
私は首を傾げる。
お姉さんは後ろを振り返った。
傷だらけの男の人達が、お姉さんに笑顔を見せている。
その一人一人を見渡しながら、お姉さんが続けた。
「信頼できる仲間と共に、頂上からの景色を見続ける事…それが、アタシの終わらない夢」
「…終わらない…夢…?」
「この景色を、いつかアンタにも知ってほしい…ってなわけで…この夢、引き継いでもらえる?」
「…引き継ぐ?」
お姉さんがふわりと軽やかに笑う。
「いつか信頼できる仲間を見つけて、そいつらと頂上から景色を見てほしいの。それをアンタの夢にしてほしい。約束してくれる?」
それは不良になれ…という意味ではなかっただろうけど。
私は不良として、お姉さんみたいに“頂上の景色”を見たいと思ってしまった。
私の目がパァッと輝く。
蕾だった花が開いたように、暗闇に光がさしたかのように。
世界が初めて、鮮やかに色づいた。
「私、やる。お姉さんみたいに仲間を見つけて…頂上からの景色を見続ける…!」
これがノーネームを作った理由の一つ。
明るい夢の、始まりの日。
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