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「できた!ぐるぐる巻き!」
アジトにしている寂れたゲームセンター。
その一角に置かれたパイプ椅子の上に座らされている男の子は、ギリギリと唇を噛んだまま私達を睨みつけていた。
その体は、しろしろが巻きつけたロープによって、しっかりパイプ椅子と繋がれている。
…うん、これじゃもう動けないね。
「お疲れ、しろしろ。…さてと」
ぐるぐる巻きで椅子に座る男の子へ私は聞いてみた。
「少年よ、君が私達…ノーネームを狙ったのは何でかな?」
「………」
男の子は答えない。
ふいっと顔を逸らされてしまい、私は腕を組んだ。
これは長くなりそうだ。
「ちゃー君、キャンディーちょうだい」
「はーい」
手渡された棒付きキャンディーの封を開けて口にくわえる。
「しろしろ、この子の体をくすぐってあげて」
「分かった!やるぞ~!」
指先を動かしたしろしろが男の子をくすぐりだす。
大きな笑い声が響くゲームセンター。
店の奥で店長さんとバイトらしき二人組が迷惑そうに顔をしかめてこちらを見ているけど気にしない。
他にお客さんいないし、許してほしい。
後で何かゲームやってくから。
「喋らないな」
「中々にしぶといようだね。負けん気が強いからか…あるいは誰かに口止めされてるのかな?」
黒ちゃんと紫君の言葉を聞きながら、私は小さくなったキャンディーを噛んだ。
数十分が経ち、男の子は笑い疲れたのかぐったりしているけれど何も話さなかった。
「あの…」
きぃ君がそっと手を上げた。
「おや、どうしたのかな?黄谷君」
紫君がニコリと笑いながらきぃ君を見た。
彼は拘束されたまま今もなお、楽しそうなしろしろによってくすぐられる男の子へ視線を向ける。
「あの…オレ達、不良なんですよね?もっとこう、殴ったりとかで無理矢理に言わせる方々もあったんじゃ…そっちのが早そうですよ?」
「きぃ君って意外に乱暴な考えを持ってるんだねぇ」
「いや、話が進まなすぎて…この調子じゃ明日になっちゃいますよ姐さん」
「うーん…」
きぃ君からの“姐さん”呼びにはまだ慣れないけど、確かにこのままだと話は平行線だ。
「仕方ない…紫君、お願いできる?」
「あはは、俺の出番かい?」
「叫、戻ってこい。怜と交代だ」
「は~い!」
黒ちゃんの声にしろしろの指の動きが止まる。
男の子が息も絶え絶えになりながら、うつむいていた。
しろしろが紫君と両手でパチンとハイタッチを交わし、場所を交換する。
紫君はポケットから取り出した黒い手袋を手に装着しながら男の子を見下ろした。
「…それじゃあ、頑張ろうか。言っておくけれど、俺は真白君より優しくはないよ」
「…ごくり…」
やっと不良らしいやり取りが見られると思ったのだろうか。
その様子をキラキラとした目できぃ君が眺めていた。
その首根っこを黒ちゃんが掴む。
「俺達は外に出るぞ、来い」
「えっ?でもここからが___」
「いいから行くぞ」
困惑するきぃ君を連れてゲームセンターの外へ出る黒ちゃん。
私とちゃー君、しろしろもそれについて行く。
ゲームセンターには今、紫君と男の子…後は無関係の従業員二人だけ。
「い、今まさにゲーセンの中では…紫神さんの拷問が行われているんですよね…!」
きぃ君が興味津々といった様子でゲームセンターを見た。
「拷問といえば拷問だよねー、あれは」
自販機の横に置かれた長イスに座り、ちゃー君が呟く。
「茶々原さんは見た事あるんですか!?紫神さんの拷問!やっぱり内容がエグいから、全員退出するって決めてるんですかね!?」
「エグいはエグいけどー、たぶん君が思ってるやつとは方向性が違うと思う」
「え…それってどういう…」
「黄谷、お前は“俺達”をどう見てる?」
黒ちゃんに問いかけられ、きぃ君が「えっと…」と視線をさまよわせた。
「そりゃ、憧れの不良です!喧嘩が強くて、毎日他の不良達と殴り合いの日々を…」
「子分、違う!オレたち、酷い事しないよー!だってノーネームだもん!」
しろしろが口を挟む。
開いたその口に棒付きキャンディーをくわえさせながら、ちゃー君が言った。
「不良なのも、喧嘩が強いってのも認めるけど、ボクら毎日誰かと殴り合いしてるワケじゃないしー?」
「え、そうなんすか?でも噂だとそう聞いて…」
「噂は噂じゃん?尾ひれが付いてく物だよ…ねぇ?」
棒付きキャンディーをくわえて、ちゃー君が黒ちゃんを見た。
「そうだな…ちょうどいい。黄谷、お前も今日からノーネームに正式加入したんだ。俺達の活動目的について話しておく」
「は…はい!勉強させて下さい!」
きぃ君が固いアスファルトの地面に正座する。
そこまでしなくても。
長椅子の真ん中に私、両脇にちゃー君としろしろが座り黒ちゃんの説明を聞く。
もちろんキャンディーを舐めながら。
「…ノーネームの活動目的…それは“学園の生徒を守る”事だ」
「…え…?生徒を…守る?」
目をまん丸にしたきぃ君が黒ちゃんを見た。
「お前も知っているとは思うが、俺達の通う大和高校は広い。私立高校だから金持ちも多く…それゆえの揉め事も多い」
「そうそう。近くの不良たちのカモにされたりねー」
黒ちゃんとちゃー君の言う通り。
揉め事が多いからこそ、それを解決する人が必要とされる。
「俺達“ノーネーム”はそんな生徒達を守るために夢明が作ったチームなんだ」
「へぇ…人助けのためになんて…姐さんにそんな高尚な考えがあったとは」
やっぱり失礼な子だねぇ、きぃ君は。
まぁ、でも…。
「それだけじゃないんだよね、実は」
カリカリとキャンディーをかじりながら私はポツリと呟く。
食いついたのはきぃ君以外のメンバーだった。
「え?他にも何かあるの、リーダー」
「そんなの初耳だぞ」
「聞きたい!聞きたい!」
「お、俺も聞きたいです、姐さん!」
皆からの視線に圧倒されながら、私は考える。
これはノーネームとはそんなに関係ない事だし、言わなくてもいいと思うんだけど…。
「まぁ、いいか。別に話しても」
そう言って小さくなったキャンディーをかじって、近くのゴミ箱に捨てる。
そして皆の前で昔話を始めた。
時が経った今でも色あせる事のない、あの日の思い出を。



