作戦実行の日は数日後の月曜日。
私達は学校をサボり、少し遠出をしていた。
この日、セブンズシンの集会が行われるらしい。
紫君が相手の大将に指定した時間まで後少し。
私は辺りを見渡した。
「ふむ…ここがセブンズシンのアジトですかな」
学校から数キロは離れた油臭い廃工場。
周りには古びたタイヤが大量に重ねられて置かれている。
風に土ぼこりが舞い上がり、小さく咳をした。
うんうん、立地は最悪だね。
「リーダー、本当に行くのかい?」
隣に立つ紫君が心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「あれ、私が怖じ気づいているとでも?」
「いや、そうじゃなくて…その格好」
紫君はそう呟いて私の下半身へと視線を向けた。
ヒラヒラと風になびく学校指定のスカート。
膝上丈のそれを見て、紫君は頭に手を添えた。
「黒石君達が口を酸っぱくして言っていたよね?スカートで喧嘩場に行くなって」
「大丈夫、パンツはいてるから」
「はいてなかったら大問題だよ」
「いいじゃなかろうか?見えるか見えないかっていう心理戦もできるし」
冗談めかして言うと、「こら」とおでこを突っつかれる。
「女の子が自分を安売りなんて、するものじゃないよ。ましてや俺達の大事なリーダーが言うなんて…次、そんな事言ったらお仕置きだからね」
マジか。
紫君の“お仕置き”ってなんか怖い。
お得意のトゲトゲした言葉で精神攻撃でもされるんだろうか。
私は白状する事にした。
両手でスカートをたくし上げる。
「っ…」
紫君が咄嗟に視線を逸らす。
「見て大丈夫だよ、下に一分丈のオーバーパンツはいてるから」
「それでも男の目の前でそんな事しちゃいけません…全くもう」
「あははっ、紫君、私のお兄みたい」
そう言ってたくし上げたスカートを元に戻す。
前にお兄の前で同じ事をした時も、今の紫君と似た言葉が返ってきたっけ。
ふと、紫君の視線が私を射抜いた。
「俺は君のお兄さんじゃないよ。むしろもっと、危険な存在かもしれない」
「…む、紫君?」
私の前で身を屈め、視線を合わせる彼に鼓動が早まる。
紫君はふっと小さく笑って、私の頭をポンポンと優しく撫でた。
「気をつけて?油断するとリーダー、その内俺にがぶって食べられちゃうかもしれないよ?」
彼の目元が妖艶に細められる。
「紫君、肉食獣だったの?」
「男は皆そうだよ。知らなかったかな?」
「へぇ、覚えておくね」
「うん、よろしい」
笑いながら離れていく紫君に、私は聞いた。
「格好っていうと、紫君のその格好は似合ってないね」
「あぁ、これかい?セブンズシンの兵隊は皆コレを着るんだ」
紫君の上半身。
黒くてゴツい見た目のスカジャンが彼の細い体をおおっている。
「俺自身あまり着慣れない物だけど…そんなに似合ってなかったかい?」
「うん。紫君にはやっぱり、“学校の制服”が一番似合っててカッコいいと思う」
そうハッキリ口にすると、紫君は嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「…うん、俺もそう思うよ」
さて。
そろそろいい時間じゃないかな?
私は紫君の服の袖口を、くいっと引っ張る。
「紫君、大丈夫?緊張してない?」
「平気だよ、頼れるリーダーが隣にいるからね」
「そっか」
紫君の返事に、私は目の前のアジトを見た。
その佇まいは私達の来訪を待ち構えているかのようにも見える。
「んじゃ、いっちょご挨拶に行きますか」
廃工場の固く閉ざされたドアを、紫君が開けた。
そこから光が差しこみ、宙に舞ったホコリがキラキラと輝く。
中にいたのは黒いスカジャンの集団。
そこに交じって、数人の女の子達が怯えた表情で男の子達に囲まれていた。
無理矢理にここまで連れこまれたんだろう。
可哀想に。
「大将はいるかな?」
紫君の言葉に、集団が道を空ける。
その奥に、一人の男の子の姿。
恐らくセブンズシンの大将だろう。
ガッシリとした体型をしていて、体は一般的な人より一回り大きく感じる。
彼は無造作に置かれた黒いソファに座り、こちらを睨みつけていた。
「紫神か、ここ最近は連絡ばかりで集会に顔出さなかったが…てっきり妹を見捨てて逃げたんだと思ったぜ。…なぁ、お前もそう思っただろ?」
大将が声を投げかけた先、一人の女の子がいた。
「いいえ、私はお兄ちゃんを信じてます」
紫君と似ている彼女は、大将を見てキッパリと言い放った。
なるほど。
話に聞いていた通り、肝の座った妹ちゃんだ。
「チッ…相変わらず見た目以外に可愛げのない女だ…おい、紫神」
大将が私を見た。
そして、ニヤリとゲスな笑みを浮かべる。
「ソレが代わりの女か?…良い女じゃねぇか」
ジュルリと舌なめずりをする大将に、私はすっとぼける。
「こんにちは~、ここで今から何が始まるんですかぁ?」
「そりゃあ楽しくてイイ事だよ、お嬢ちゃん」
私の近くにいた男の子がニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
紫君が笑みを崩さずに口を開く。
「彼女をここまで連れてくるのは大変だったんですよ、もうかなり揉めまして」
「ハハッ!紫神、テメェともあろう奴がこんな弱っちそうな女一人に振り回されてたのかよ!ダセぇな!」
笑い声に包まれる中、紫君が続けた。
「あはは、えぇ本当に…俺はダサい奴ですよ。もっと早い解決方法に一年も気づかないでいたんだから」
「…なんだと?」
「ほら、お嬢ちゃん。大将が待ってるからこっちにきな」
私に向かって男の子の手が伸ばされる。
「全員、彼女を“可愛いだけの女の子”だと思っているみたいですが___気をつけて?彼女はここにいる誰よりも強い」
男の子の手が触れる直前、私は彼の腕をとり…。
思いきり背負い投げを決めた。
男の子の体は一瞬宙に浮き、強くコンクリートの床に叩きつけられる。
先程までうるさかった笑い声。
それが全てなくなり、場が静まり返る。
しばらくの沈黙の中、投げ飛ばされた男の子のうめき声だけが辺りに響いていた。
「…紫神…テメェ…裏切りやがったな…?」
「あはは、裏切るも何も…俺達は“仲間”でしたっけ?」
「おい!テメェら!遠慮はいらねぇ…紫神とその女を殺せ!」
怒り狂う大将の言葉に、兵隊達が私に向かってくる。
「皆ー!始めるよー!!」
私が叫ぶ。
その瞬間___。
四方からスカジャンの男の子達が投げ飛ばされた。
さぁ、開戦だ。



