夢明-NO Name-


「言えよ、怜…どういう事なんだ」


黒ちゃんが紫君に詰め寄る。

うつむいたまま何も話さない紫君に、黒ちゃんは片手を振り上げた。


「言わないっていうなら…!」


「ユーセイ!落ち着いて!」


それをしろしろが羽交い締めにして止める。


「殴っちゃダメ!話そ!落ち着こう!」


「そうだよ、冷静になってってば…!」


ちゃー君が黒ちゃんと紫君…二人の間に体を滑りこませた。


「叫、離せ…育人もそこをどけ…!」


黒ちゃんが険しい表情で紫君を睨みつける。


「あ…あぁ…」


きぃ君がその迫力にすっかり怯んでしまっている。

今にも飛びかかりそうな黒ちゃんの体をしろしろが必死に押さえこみ、ちゃー君が手で制した。


「話そうユーセイ!レイと話そうよ!何か理由があるんだよ!」


「そうだよっ…!まずは話しを聞こう、殴るかどうかはその後でいーでしょ…!」


しろしろとちゃー君の問いかけに、僅かに黒ちゃんの動きが止まった。

きぃ君も必死に言葉を投げかける。


「そ…そうですよ…!お二人が喧嘩する所なんて俺見たくないです…!」


私は駆け寄り、黒ちゃんと紫君の頭を撫でながら冷静に言葉を紡ぐ。


「黒ちゃん、イイコだから落ち着いて…紫君、詳しくお話を聞かせてもらえるかな?」


紫君は顔を背けたまま、ゆっくりと口を開く。


「……の…だよ」


初めて聞くようなか細い声。


「え…?ごめん、なんて?紫君」


聞き取れずにもう一度尋ねる。

紫君はもう一度…今度はハッキリと口にした。


「…朱堂君が、言っていた通りだよ」


その言葉に、場が凍りついたような気がした。

全員の視線が紫君に注がれた。

紫君は力なく続ける。


「俺は、セブンズシンのスパイだ。そこの大将に…君達の情報を流すつもりだった」


「っ…お前っ…!!」


再び黒ちゃんが紫君を殴ろうとする。


「真白君、止めて!」


「わ…分かった!」


呆然としていたしろしろが、ちゃー君の言葉でハッとしたように黒ちゃんを拘束した。

黒ちゃんの拳が紫君に届く前に止められる。

怪力のしろしろ。

その拘束から逃れるのは至難の業だ。

ちゃー君が紫君を振り返った。


「スパイが事実として…その詳しい内容を聞いてないよね?何でそんな事になったのさ、理由を聞かせてよ紫神君」


困惑しているのか、焦ったような声色。

私も紫君へ問いかける。


「私達、仲間だよね?事情を聞く権利、あると思うんだよ…ねぇ、聞かせて紫君」


「レイ!レイが話すまで、ユーセイ捕まえとくから!大丈夫!話そうよ!」


しろしろの声を聞いて、紫君はこちらへと視線を向けた。

その瞳が悲しげに揺れる。


「もしかして…」


紫君が口を閉ざした空間で、きぃ君がポツリと呟いた。


「紫神さんが“死神”って呼ばれている理由とセブンズシンは、何か関係ありますか…?」


「…黄谷、どういう事だ」


黒ちゃんが紫君を睨んだまま言った。

きぃ君は震える唇でおずおずと続ける。


「一般的な噂では、紫神さんが“死神”と呼ばれる理由は“敵に破滅をもたらす程恐ろしく、強いから”です…でも別の噂もあって…」


きぃ君の視線が何か迷うようにさまよった。


「…その、紫神さんがいるチームは…必ず壊滅するって言われて、て…だから“味方にとっての死神”とも言ってる奴も…」


味方を壊滅させる“死神”___。

その言葉に全員が息をのんだ。


「で、でも!仲間に入れて短い時間でしたけど、紫神さんがノーネームを裏切ってるとも思えなくて…俺…つまり、何が言いたいのか___!」


黒ちゃんが歯を食いしばる。

そのまま、きぃ君の話に集中していたしろしろの足を払い横へ背負い投げた。


「真白く___」


言いかけたちゃー君の体を両手で押しのけ、黒ちゃんが紫君と距離を詰める。

そのまま、腕を振り上げた。

紫君の顔の近くにある壁。

そこに固く握られた黒ちゃんの拳が落ちる。

ダンッ___と大きな音が鼓膜を震わせた。


「…怜…詳しい事を話せ。言わないなら今度は…」


「殴ってくれて構わないよ」


「………」


「それだけの裏切り行為をしていた自覚がある。黄谷君の言う通り、俺は“死神”だ。このチームにいてはいけなかった」


彼はいつものように、笑っていた。

困ったような顔で。

紫君はいつもそうだ。

自分の事、詳しく話そうとしたがらない。

紫君の言葉に、壁につかれた黒ちゃんの拳が震える。

黒ちゃんは紫君を殴ろうとしない。

分かるよ、黒ちゃん。

本当の事、言ってほしいんだよね。

スパイだって黙ってた事に怒ってるのと同じくらい、仲間として信じたいんだよね。

笑って、悪者になって逃げるんじゃなくて…仲間として信じて話をしてほしいだけ。

私は紫君に近づきながら、ハッキリと言う。


「紫君、君は裏切ったりしてないよ。そうでしょ」


私の言葉に紫君が表情を消した。

…意地でも自分の事情を話す気がないと見える。

それなら昔話でもしようか。

私は紫君の冷たいほっぺたに手を添えた。


「紫君、覚えてる?私と君が初めて会った時の事」