夢明-NO Name-


***

次の日。

さぁ、始まる。

相手は何を考えてるか分からない転校生、シュシュ君。

お昼時。

空腹を刺激するような、食べ物のいい匂いで満たされた教室の中。

私は数人の生徒とお弁当を食べている彼に近づく。

辺りが少しざわめいた。


「シュシュ君、お話があるんだけど、いいかな?」


彼はまるで私が話しかけてくると分かっていたかのように、冷静に応じた。


「えっと…シュシュ君って僕の事かな?うん、もちろんいいよ。僕も灰川さんと話してみたかったし」


「お、以心伝心ですな。それじゃ今日の放課後に屋上で待ってるね~」


ひらりと手を振り、私はその場を立ち去った。


***


放課後になるのは意外に早い。

お昼を屋上で五人と過ごし、ちゃー君から盗聴器を受け取って…そのまま午後の授業はサボってしまった。

心地良い風が肌をくすぐり、目を開く。

いつの間にか眠っていたらしい。

上体を起こし、辺りを見渡す。


「お目覚めかな?灰川さん」


後ろから声がして立ち上がる。

すぐさまピョンッと後ろに下がり距離を取った。

屋上のドアに背中を預けたシュシュ君が、私を見て小さく笑う。


「警戒してる?…安心していいよ。君に…ノーネームに危害を加えるつもりないから」


「危害を加えるつもりはない、か。…私ときぃ君を不良に襲わせたのに?」


「君達がどれだけの強さか知りたかったからね…期待通り、君達は…君は強かった。この学校に来てよかったよ」


「それはどうも」


素直にお礼を言う。

少しの間、沈黙が流れた。

シュシュ君は視線を下げ、何かを決心するように拳を握る。


「本題に入ろうか…君達ノーネームに頼みたい事がある」


「うーん、内容によるかなぁ」


七つの大罪(セブンズシン)という不良チームを知っているかい?」


「セブンズ…シン?」


聞いた事がなくて首を傾げる。

人の顔と名前もうろ覚えなのに、そこらに数多いる不良チームの名前なんて覚えていられない。

シュシュ君は私の様子を見て、目を閉じた。


「…彼らは最低最悪のチームでね。女子供にも手を上げるようなゲスの集まりさ。最近では傷害事件も多く起こしていて有名だと思ったんだけど…」


傷害事件___。

そういえば、ちゃー君がそんな事を言っていたような気がする。

それで学校周辺を警戒してたんだっけ…。

そのチームが“セブンズシン”…?


「その不良チームがどうしたの?シュシュ君と関係があるのかな?」


私の言葉に、シュシュ君は閉じていた目を開いてこちらを見た。


「ああ。…そいつらを壊滅させてほしいんだ」


「それはまた…大きな話になってきましたなぁ。これは一度持ち帰って、じっくり検討を…」


「今、ここで、君から返事を聞かせてほしい」


そう言われ、口を閉ざす。

一つのチームと戦うって事なら、皆の意見を聞いておきたかった。

私の勝手な一存では決められない。

迷う私にシュシュ君が暗い瞳を向けた。


「もしも…僕の願いを拒否するなら___男子はもちろん、女子も…この学校の生徒が危険にさらされる事になるよ」


「……へぇ、そんな事言うんだ?」


私の声が僅かにトーンを落とした。


「君達の目的はこの学校の生徒を守る事…なんだろう?調べたよ。そして僕も、今はこの学校の生徒だ。僕の願いを叶えてほしい」


「言ってる事がめちゃくちゃではないかな?」


「そうだね、分かってるさ。…でもね、僕ももう、手段を選んでられないんだよ」


鬼気迫る顔をしたシュシュ君。

生徒を人質にしてもセブンズシンを壊滅させたい…それだけの理由があるのだろうか。


「君はセブンズシンとどういう関係なの?何かされたのかな?詳しい事を教えてくれたら___」


「それを知りたいなら!」


私の言葉を遮って、シュシュ君が声を荒げた。

彼は一瞬だけ迷ったように視線を左右に動かす。

けれど唇を噛み締めて、私を見つめた。


「僕の事を…セブンズシンとの関係を知りたいなら…彼に(・・)聞けばいい」


「…彼…?」


シュシュ君の口が動く。


「紫神 怜___彼はセブンズシンのスパイだ」


聞こえたのは、あの寂しげな背中をした男の子の名前だった。

すぐに盗聴器の存在を思い出す。

私はシュシュ君をその場に残し、弾かれたように屋上を後にした。

向かうのは一階。

私以外の全メンバーが集まる、空き教室。

飛び降りるように階段を下り、廊下を疾走する。

息が切れるのもお構いなしに、ひたすら足を動かした。

一階につくと大きな音が聞こえる。

誰かの怒声。

空き教室のドアを勢いよく開けた。

そこには___。

壁際に追いこまれた紫君と、その胸ぐらを掴む黒ちゃん。

その背後から止めようとするしろしろとちゃー君。

怯えたように床に尻もちをつくきぃ君。

一触即発の空気の中、黒ちゃんが紫君を問い詰める。


「スパイってどういう事だ、怜___!」


紫君は切ない瞳で視線を床に落とした。

握られた黒ちゃんの拳が震えている。

黒ちゃんを止めなきゃいけない。

彼は“裏切られる”事に敏感だから。

私は足を動かしながら、出会った時の黒ちゃんを思い出していた。